「フランク三浦」と「フランクミュラー」訴訟に見る商標権侵害
2016/04/22 知財・ライセンス, 商標関連, 商標法, メーカー
はじめに
「フランク三浦」の商標を特許庁に無効とされていた株式会社ディンクスが無効審決の取消を求めて訴えていた訴訟で、4月12日知財高裁は取消を認めました。今回は、この判決を元に、著名な作品のパロディ商品と商標権侵害について見ていきます。
事件の概要
株式会社ディンクスはスイスの高級時計ブランド「フランクミュラー」のパロディ商品である「フランク三浦」を2012年に商標登録し販売していました。それに対しフランクミュラーは2015年9月特許庁に対して商標登録無効審判の申立を行い、「フランク三浦」の商標権は無効とされていました。ディンクスは特許庁の無効審決に対して取消を求める訴えを起こしていました。
パロディ商品とその問題点
パロディとは既存の作品等を風刺または揶揄する目的をもって模倣することを言い、本件フランク三浦も公言されているとおりフランクミュラーのパロディに当たります。巷では多くのパロディ商品が販売されていますが、パロディには本来の権利者に対する多くの権利侵害の危険が含まれています。まず本件で問題となった商標権侵害があげられますが、他にも著作権侵害、意匠権侵害、不正競争防止法違反といったものがあげられます。今回は問題となっている商標権侵害とその要件について見てみます。
商標権侵害の要件
商標法に基いて特許庁の登録を受けた商標権者は登録の日から、その商標を使用した商品または役務について登録商標を使用する権利を専有します。この商品と役務のことを「指定商品」「指定役務」と呼びます。そしてこれら「指定商品」「指定役務」と同一の商標を使用する行為だけでなく、類似のものを使用する行為も商標権侵害となります。まったく同一の商標を使用する例はあまり存在せず、多くの場合は類似性が問題となります。商標権侵害となる類似性が認められるかの判断基準は判例によりますと、商品役務の出所の混同が生じるか否かで判断されます。そしてその判断にあたっては、当該商品の外観、称呼、観念の類似性を取引の実情を踏まえた上で総合的に考慮されます。外観とは見た目であり、称呼とは文字や図形等の読み方、観念とは文字、図形の意味を指します。その見た目や呼び方、意味から一般消費者に与える印象や実際の取引の実情に照らして判断されることになります。
判決要旨
本件フランク三浦商標無効審決取消訴訟で知財高裁は、「フランク三浦」はカタカナと漢字を組み合わせたものであり本家の「FRANCK MULLER」との外観の類似性は無い。また「フランク三浦」からは日本人ないし日本に関連するものが観念されるが、本家「フランクミュラー」からは外国の高級時計が観念されているとして、日本において類似しているのは読み方である称呼のみであり、外観、観念は類似せず両者に混同が生じるおそれはないとしました。
コメント
フランクミュラーはフランク三浦に対し、語感が極めて類似しており、著名で高級なブランドである「フランクミュラー」の信用や顧客吸引力へのただ乗り目的であると主張していました。それに対しフランク三浦側は、巧妙なパロディーによって需要を獲得しており、ただ乗りではないと反論していました。知財高裁は商標の外観と日本における当該商標から来る意味・観念が異なること、フランクミュラーの腕時計の多くが100万円を超える高級品である一方、フランク三浦の腕時計が4000円~6000円の低価格品であることから両者の混同は考えにくいとして商標権侵害を否定しました。本件はあくまで商標権侵害が問題となっていましたので、フランクミュラー側の主張が認められず「混同は生じず侵害」は無いとされました。しかしこれが不正競争防止法違反に基づく販売差止が求められていた場合、フランクミュラー側の主張である顧客吸引力の不正利用であると認められ、販売差止、損害賠償が命じられる可能性はあると言えます。判例や今回の知財高裁判決から見ると、パロディは商標権侵害に該当することは少ないと言えるかもしれませんが、その他の著作権、意匠権等を侵害し違法となることも十分に考えられます。パロディー商品の開発には細心の注意が必要と言えるでしょう。
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