三菱モルガン証券に課徴金、金商法の相場操縦について
2018/08/01 金融法務, 金融商品取引法
はじめに
金融庁は7月31日、日本国債の先物取引で相場操縦をしたとして三菱UFJモルガン証券に対し2億1837万円の課徴金納付命令を出していたことがわかりました。デリバティブに関する課徴金では過去最高額とのことです。今回は金商法が規制する相場操縦について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、三菱UFJモルガン証券のディーラーが2017年8月に長期国債の先物取引で相場操縦を行い158万円の利益を上げていたとのことです。実際には取引意思が無いにもかかわらず大量の売買注文を出して取引が活況であるように見せかけ価格を操作する、いわゆる「見せ玉」と呼ばれる方法を取っていたとされます。国債相場の低迷で出た損失の穴埋めを目的としていたとのことです。これにより国債取引の特別資格も停止されており、証券取引等監視委員会から課徴金納付命令の勧告が出されておりました。
相場操縦とは
(1)仮装売買
市場における相場を意図的に変動させ、それがあたかも自然の需給による価格形成であるかのように他の投資家に誤認させ利益を図る行為を相場操縦と言います。そのうちの一つである「仮装売買」は単独または複数の者が通謀して自己の保有銘柄を自己の注文同士で売買を成立させ、あたかも活発に取引がなされているように偽装する方法です(金商法159条1項)。
(2)見せ玉
見せ玉とは、もともと約定させる意思のない注文を発注し、他の投資家の注文を誘発して自己に有利な相場に変動させる行為を言います(同2項)。例えば自己が希望する価格まで相場を上げる目的で大量の買い注文を出し、活況であると誤信させて他の投資家からの高値の買い注文を誘発し、希望の価格で売り抜いたあと最初の買い注文をキャンセルするといった方法です。
(3)安定操作取引
安定操作取引とは、相場を固定する目的で高値または安値を付ける取引を繰り返すことを言います。「株価固定」ともよばれ、金商法では主幹事証券等が行う特定の株式の売出し等の場合にだけ例外的に許容されており、原則相場操縦として禁止されます(同3項)。
課徴金
上記相場操縦を行った場合は課徴金納付命令が出されることがあります(174条)。課徴金額の算定方法はかなり複雑ですが、簡単に説明しますと、違反行為期間中に売った数量に売りつけ価格を乗じて、そこから違反行為から1ヶ月までの最低価格を乗じたものを控除した額が課徴金額となります(同1項1号イロ)。
罰則
相場操縦行為に対しては罰則が規定されており、10年以下の罰金、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となります(197条1項5号)。また不正に得た利益は没収され(198条の2)、法人に対しては7億円以下の罰金が課されることもあります(207条1項1号)。
コメント
本件で三菱UFJモルガン証券のディーラーが行っていたとされる行為は大量の買い注文を出して価格を高騰させ、売り抜けてから買い注文を取り消すといういわゆる見せ玉と呼ばれる行為です。近年長期国債は価格変動が乏しく利益が得られにくい金融商品とされてきました。そのような状況下で相場を上げることを目的として行われたものと考えられます。これによりディーラーが得た利益は158万円ですが、同社に課された課徴金は2億円を超える厳しいものとなっております。また国債取引の特別資格も停止され、同社のイメージに与える影響も小さくないと言えます。相場操縦行為はともすれば通常の取引の感覚で行われがちですが、市場取引の公正に多大な影響を与える行為であり相当厳しく取り締まられております。これら金商法上の規制には注意を払い、もし違反の可能性がある場合には同法のリニエンシー制度を利用して損失軽減を図ることが重要と言えるでしょう。
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