東京地裁が芸能スクールに契約変更命令、消費者契約法の規制について
2021/06/16 消費者取引関連法務, 消費者契約法, その他
はじめに
芸能スクールが、受講生との契約に退学時に入学費用を返還しないとの条項を盛り込んでいるのは消費者契約法違反だとして適格消費者団体が変更を求めていた訴訟で10日、東京地裁は変更を命じていたことがわかりました。返還しなくてもいい上限を超えているとのことです。
今回は消費者契約法が規制する損害賠償額の予定について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、大手芸能プロダクション「エー・チーム」のグループ会社が運営する芸能スクール「エーチーム・アカデミー」では受講生との契約に、退学時にすでに納入している入学時諸費用は返金しない、オリエンテーション実施日以降の退学等の場合は返金しない、除籍処分になった場合も準用するとの条項を設けていたとされます。
入学時諸費用は38万円で、毎年約2000名以上の在校生が在籍しているとのことです。同スクール以外でも同種のトラブルはここ数年で国民生活センターに10件寄せられているとされます。
これに対し適格消費者団体の「消費者機構日本」は同社に同スクールに対し契約内容を改めるよう求め東京地裁に提訴しておりました。
消費者契約法と損害賠償額の予定
消費者契約法9条1項によりますと、消費者契約解除に伴う損害賠償額の予定や違約金等の合計が、解除の事由、時期等の区分に応じて、同種の消費者契約の解除に伴い生じる平均的な損害の額を超える場合は、その超える部分は無効とするとされております。
また同条2項では年利14.6%を超える遅延損害金についても無効としております。「キャンセルの際は解約料として契約金の80%を申し受けます」といった条項や、「支払いが期限を過ぎた場合には年30%の遅延損害金を支払うものとする」といった条項が典型例と言えます。
また逆に事業者の損害賠償義務を全部免除するといった条項も無効となります(8条)。このように消費者契約法では消費者の利益を不当に害する契約条項は無効となっております。
平均的な損害とは
それでは同種の消費者契約解除に伴う「平均的な損害」とはどのようなものをいうのでしょうか。
この点について裁判例では、「平均的な損害とは、民法416条にいう通常生ずべき損害と同義であり、具体的に損害にあたるかどうかの判断にあたっては、消費者契約の当該契約類型における合意内容にしたがって個別具体的に判断すべきである」(東京地裁平成28年12月9日)としております。
そして「通常生ずべき損害」とは一般的には債務不履行と相当因果関係のある損害を言うとされております。同種・同業の消費者契約において解除に伴う相当因果関係が認められる範囲の損害ということです。これを超える違約金や賠償額の予定は無効となります。
適格消費者団体の差止め
内閣総理大臣の認定を受け、不特定多数の消費者の利益を保護するために不当な消費者契約等の差止を請求することができる団体を「適格消費者団体」と言います(23条)。
令和3年現在、全国に21団体が存在するとされ、現時点で73事業者に対して適格消費者団体による差止請求訴訟が提起されたと言われております。
適格消費者団体は「不特定かつ多数の消費者」との間で上記に違反する契約がなされ、またはなされるおそれがある場合に差止請求ができるとされます(12条3項)。ただし適格消費者団体は差止請求権を濫用してはならないとされております(23条2項)。
コメント
本件では、入学時諸費用の全額が「平均的な損害の額」を超えないか、受講生が「不特定かつ多数の消費者」該当するか、適格消費者団体による差止請求が「濫用」当たらないかが主な争点となっておりました。
被告側は経費などを含め、損害額は38万円を超えると主張しておりましたが、東京地裁は講師から学ぶ実技などを考慮しても13万円が上限と判断しました。
また受講生はプロの芸能人であり消費者ではないとの反論がなされましたが、大半は芸能活動の経験がなく、実際に俳優として活躍できるのはごく一部とし「消費者」に該当するとされました。
以上のように不特定多数の消費者との契約で盛り込むことができる賠償額の予定は通常生ずべき損害額までに制限されます。その判断に当たっては客観的に契約類型や合意内容等から判断されます。今一度自社での契約条項の内容を確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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