東京地裁が「八丁味噌」のGI取消訴訟で訴え却下、地理的表示保護制度とは
2022/07/07 知財・ライセンス, 広告法務
はじめに
愛知県の企業による組合が「八丁味噌」の地理的表示(GI)登録をしたことに対し、岡崎市の老舗業者が国に取り消しを求めていた訴訟で、東京地裁が訴えを却下していたことがわかりました。原告側の業者は控訴する方針とのことです。今回は農産物等の地理的特性を保護する地理的表示保護制度を見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、農林水産省は2017年、愛知県内の企業による組合が近代的な製法で生産する八丁味噌を地理的表示保護制度に登録したとされます。しかしこれに対して岡崎市の老舗業者らによる組合が「伝統的な製法と異なる」として不服申立を行うも棄却されていたとのことです。老舗業者の1つである「まるや八丁味噌」は登録の取り消しを求め東京地裁にしておりました。原告側によりますと登録見直しを求める署名は10万件超えているとされております。
地理的表示保護制度とは
地域の気候や風土、土壌、生産方法といった地域的特性と品質などが結びついている生産物について、その名称を知的財産として登録し、保護する制度を「地理的表示保護制度」と呼びます。神戸ビーフや市田柿などが挙げられます。地理的表示はGI(Geographical
Indication)とも呼ばれ「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(GI法)」により保護されることとなります。この特定農林水産物等をその生産地や品質の基準等とともに登録しますと、この基準を満たす産品にはGIマークを表示することができるようになります。これにより他の産品との差別化が可能となり、一種のブランドとして保護されることとなります。またこのGI登録によってWTO加盟国等や相互保護に関する国際条約などによって一定の範囲で海外でも保護が期待できるようになります。
地理的表示登録
地理的表示登録を申請するにはまず、その地域の生産業者によって生産者団体を組織する必要があり、業者単独では申請することはできません。この生産者団体を組織するにあたっては、その約款などで加入の自由を定める必要があり、正当な理由なく加入を拒否したり、困難な条件を設けてはならないとされます。この団体はブランド協議会のような団体でも可能とされ、生産業者以外の者も加入することができると言われております。申請書には地域で話し合い、その産品が満たすべき品質の基準を作成して、名称、生産地、特性、生産の方法、産地との結びつき、生産実績を記載し、明細書と生産行程管理業務規程を添付します。農林水産大臣の審査を経て登録完了となります。
地理的表示の保護
GI法3条2項によりますと、何人も、登録に係る特定農林水産物等が属する区分に属する農林水産物等に、地理的表示またはこれに類似する表示もしくはこれと誤認させるおそれのある表示を使用してはならないとされます。また4条では登録を受けたGI表示を使用する者は登録標章を使用することができ、この登録標章またはこれに類似する標章を不正使用している場合や、不正にGI表示等を使用している場合に対しては、農林水産大臣はこれらの除去や抹消を命じる措置命令を出すことができます(5条)。この措置命令に違反した場合には5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されております(39条)。法人に対しても3億円以下の罰金が科されることがあります(43条1号)。
コメント
本件で近代的な製法で八丁味噌を製造する事業者の団体により地理的表示登録がなされたところ、伝統的な製法で製造する老舗業者による団体から取り消しが求められました。これに対して東京地裁は「混同を防げば『八丁味噌』として表示を使用できる」などとして訴えを却下したとのことです。登録されたGI表示と類似または誤認させる表示をしなければ、伝統的な製法による八丁味噌の販売に支障はないと判断されたものと考えられます。原告側は登録された八丁味噌の製法自体に異議があるものと思われることから今後も登録自体が争われることが予想されます。以上のように地域の生産物や農作物にはその地域の特性と合わせて、一種の知財として保護される制度が用意されております。特許や意匠、商標だけでなく、様々な知的財産制度を柔軟に駆使していくことが重要と言えるでしょう。
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