東京新聞記事の無断使用で、つくばエクスプレス側に賠償命令 ―最高裁
2024/04/30 知財・ライセンス, 著作権法
はじめに
私鉄「つくばエクスプレス」を運行する首都圏新都市鉄道株式会社が社内ネットワークに東京新聞の記事のコピーを無断で掲載する著作権侵害を行っていたとして、東京新聞の発行元である株式会社中日新聞社が損害賠償を求める訴訟を提起していました。
最高裁判所は4月25日、双方の上告を退け、これにより、首都圏新都市鉄道側に約133万円の損害賠償を命じる二審判決が確定しました。
新聞記事データを社内で掲載
首都圏新都市鉄道は、東京の秋葉原駅と茨城のつくば駅を結ぶ鉄道「つくばエクスプレス」を運営している会社です。
報道などによりますと、首都圏新都市鉄道は鉄道が開業した2005年度から2019年度までの間に、東京新聞に掲載されたつくばエクスプレスや沿線地域についての記事などをスキャンして画像データ化し、会社内のネットワークに掲載していたということです。画像は全従業員である約530〜730人が閲覧できる状態となっていました。
東京新聞の発行を行う中日新聞社は2019年に、東京新聞など複数の新聞記事が首都圏新都市鉄道により、無断利用されていることを知り、「長期間にわたり組織的に著作権侵害を繰り返した」として、2020年2月に損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しました。
■一審判決(2022年10月)
東京地方裁判所は、少なくとも591本の記事で首都圏新都市鉄道による著作権侵害があったと認定。1記事につき3000円の損害を認め、192万円の損害賠償を命じています。
■二審判決(2023年6月)
上述のように、一審判決では591本の記事の無断使用が認定されましたが、二審では232本分のみ認定されました。2005〜2011年度の記事については、掲載された証拠がないと判断されたためです。そのため、2012年度から2019年度の間に掲載された記事のみが無断使用として認定される結果となりました。一方で記事1本当たりの損害については、一審判決よりも2000円高い「5000円」と認定され、最終的に首都圏新都市鉄道に、計約133万円の損害賠償が命じられています。
■上告審判決(2024年4月)
二審判決を受け、首都圏新都市鉄道側・中日新聞側の双方がこれを不服として上告しました。しかし、最高裁判所は双方の上告を退ける決定をしたため、約133万円の支払いを命じた二審・知財高裁の判決が確定する結果となりました。
なお、首都圏新都市鉄道は、日本経済新聞の記事の無断使用を理由に、株式会社日本経済新聞社からも提訴され、賠償を命じられるなどしています。
新聞記事は著作物と判断
今回の訴訟で、首都圏新都市鉄道側は「新聞記事は、“事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道(著作権法第10条2項)”に該当するため、著作物には当たらない」などと主張し、裁判の争点となっていました。
ちなみに、著作権法第10条2項にいう“事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道”とは、人事往来、死亡記事、火事、交通事故等のように単なる事実を羅列したにすぎない、誰が書いても同様の内容となるような記事などを指します。
こうした首都圏新都市鉄道側の主張に対し、一審も二審も、記事は著作物に当たると判断しました。
理由として、まず、著作物といえるための創作性の程度として、「作成者の何らかの個性が発揮されていれば足りる」としたうえで、事故の記事などでは、関係者インタビューなどを適宜、取捨選択・要約するなどの表現上の工夫を施して記事を作成している点を指摘。いずれも作成者の思想や感情が創作的に表現されたものと認められることから、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」であるということはできないと判断されたものです。
新聞著作権に関する日本新聞協会編集委員会の見解
こうした新聞の著作権については、日本新聞協会編集委員会が見解を示していますので、一部を紹介します。
(1)新聞、通信、放送各社が撮影する報道写真について
報道写真は、著作権法第10条が規定する「写真の著作物」に該当するため、いかなる報道写真も自由利用が認められず、使用する場合は当該社の許諾を求める必要がある。
(2)「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」について
著作権法第10条2項にいう「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」とは、単純なストレートニュースにおける事実関係を記載した記事に限定され、事件の構成要因・背景、取材過程で見聞した事実などを含む報道記事は、これに含まれない。そのため、大半の報道記事については、これらを複製・転載する場合には、当該社の許諾を得たうえで正当な範囲内で利用する必要がある。
(3)新聞の編集著作物該当性
新聞の紙面全体および、政治面・社会面その他各面は、著作権法第12条で保護される「編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するもの(編集著作物)」に該当する。
そのため、新聞紙面の全部または一部を無断で複製し、それを自社のPRとして使用したり、一冊の本として販売するなどの行為は、編集著作物としての著作権の侵害にあたる(もちろん、各紙面に収録されている個々の記事・写真の著作権も同時に侵害している)。
(4)新聞の私的使用のための複製
著作権法第30条にて許容されている「私的使用のための複製」については、個人またはごく少人数のグループによる私的研究や情報の素材としての利用などを認めたものに過ぎず、極めて限定的に解釈すべき。そのため、以下の行為は新聞著作権の侵害にあたる。
①報道・評論等を主たる業務としない者が、営利目的で、無断で新聞記事を転載・編集して配布するなどの行為
②企業が自社に関連する情報の収集や分析のために記事・紙面を複製するなどの行為
③団体が会員サービスの一環として記事・紙面を複製またはこれを無断配布するなどの行為
コメント
近年、企業などがLANやイントラネットなどの内部ネットワークを構築し、そこに、従業員の学びに繋がる新聞記事や自社が取り上げられたニュースなどを切り抜いて掲載し、周知するケースが増えているといいます。
その際、社内限定で従業員が個別に見るだけだから「私的使用(著作権法第30条)」に過ぎず、新聞社の許諾は必要ないと考えてしまう企業もあるといいますが、私的使用の範囲は狭く解される傾向にあり、著作権侵害とされる可能性は高いといえます。
社内の広報などに対し、新聞記事を使用する際の注意点について十分に周知する必要があります。
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