【特集】第2回 株主提案権の行使について
2017/10/20 商事法務, 総会対応, 会社法
第1 はじめに
こんにちは。企業法務ナビ企画編集部です。前回より「株主総会における企業の対応」と題して特集記事をお送りしておりますが、今回は株主提案権にスポットを当てて見ていきたいと思います。この株主提案権については、2012年に野村ホールディングスにおいて、「社名を『野菜ホールディングス』に変更する」との提案が1人の株主からされました。はたして、株主提案権の行使として正当と言えるでしょうか。株主提案権は、株主が会社の経営に参加するための重要な権利の一つです。にもかかわらず、近年では会社を困惑させたり、個人的な目的で株主提案権を行使する事例が散見されます。現在、法務省でも株主提案権のあり方について議論が行われており、株主提案権の濫用について制限しようとする動きが見られます。
そこで、企業法務担当者が株主提案権を行使された場合にどのような点についてチェックすべきか、また会社が他の企業の株主として株主提案権を行使する場合、その準備として企業法務担当者がどのような点について注意すべきかという観点でまとめてみました。
<参考記事>
株主提案権、濫用防ぐ 回数制限など法務省検討(日本経済新聞)
株主提案権の濫用的な行使に関する検討(商事法務):PDFファイル
第2 株主提案権とは
株主提案権とは、株主が株主総会の議案を提案する権利のことです。経営に参加する権利である共益権の一つです。株主提案権は、議題提案権、議案提案権、議案通知請求権で構成されます。「議題」とは、一般には、会議にかけて討議する題目のことを指し、「取締役選任の件」など、株主総会の目的である事項をいいます。これに対し、「議案」とは、会議において議決すべき具体的な提案を指します。例えば、「AとBの両名を取締役に選任する件」です。
<参考記事>
【株主総会の運営】株主が株主提案権を行使してきた(上場会社役員ガバナンスフォーラム)
第3 会社が株主提案権を行使された場合の確認項目
会社が株主から株主提案権を行使された場合、以下の4点を確認が必要です。また、会社が他の企業の株主として株主提案権を行使しようとする場合には、企業法務担当者は以下の要件を検討して自社の株主提案権の行使が適法かどうかの確認する必要があります。
①提案株主の資格
②提案の方法
③提案の内容
④同一議案の連続提案の制限
<参考記事>
株主総会において株主提案が行使された場合の対応方法(BUSINESS LAWYERS)
第4 提案株主の資格
株主提案権の行使するための資格は会社によって異なるので注意が必要です。
1 取締役会設置以外の会社
全ての株主(単独株主権)
2 取締役会設置会社(公開会社)
総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を6ヶ月間前から引き続き有する株主(「100分の1及び300個」という要件は、定款で緩和可。継続保有の要件も定款でこれを下回ることも可)
3 取締役設置会社(非公開会社)
総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を有する株主
<参考記事>
株主提案権が行使できる株主なのか確認する方法(BUSINESS LAWYERS)
第5 提案の方法
株主提案権を提案しようとする株主は、株主総会の日の8週間前までに請求することその他法令・規則に照らし適切な方法によっていることが必要となります。
提案する際の書面の様式は特に定めは有りません。もっとも、行使する旨を通知すべく以下の事項を記載するとよいです。
①株主名
②提案株主の議決権数
③株式を取得して株主名簿の名義書き換えを完了した日
④提案議題の要旨とその理由
<参考記事>
株主提案権行使通知書についての文例(内容証明郵便の書き方と文例)
第6 行使の内容
株主総会は、会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限り、決議をすることができます。
書面投票制度または電子投票制度を採用する会社については、株主総会参考書類に議案の記載が義務付けられているため、株主提案においても、議題とともに議案が提案されていることが必要です。
そして、議案の内容が法令もしくは定款に違反する場合にもこれを取り上げる必要はありません。
第7 同一議案の連続提案の制限
実質的に同一の議案につき株主総会において総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合には株主総会に上程する必要は有りません。そこで、企業法務担当者は過去3年以内の提案と照らし合わせて実質的に同一内容の提案に当たるかどうか確認することが求められます。実質的に同一か微妙な場合には、上程しなかった結果として株主総会決議取消訴訟を提起されるリスクを回避するため、再度上程して否決する方法も考えられます。
第8 対応としての注意
株主提案権の行使が適法といえる場合、提案された議題、議案は株主総会に上程しなければなりません。仮に上程すべきであるにもかかわらず上程しなかった場合には、招集手続及び決議方法の瑕疵にあたり、株主総会決議取消訴訟、過料の対象となる可能性があります。そのため、上程するかどうか決定するにあたり、そのようなリスクが生じる可能性が無いかも含めて検討することが必要です。
また、会社が他の企業の株主として株主提案権を行使した場合に、当該企業の株主提案権に対する対応が違法と考えられる場合(提案を握りつぶされたような場合等)も想定されます。この場合には、企業法務担当者は会社としての対応を検討するとともに、弁護士とこれに対する法的な対応について協議することも必要となってきます。
<参考記事>
第9 おわりに
株主提案権は、会社の経営に参加するための重要な権利です。そのため、企業法務担当者としては、株主の権利行使の機会を奪わないよう株主提案権の行使については慎重に対応することが求められます。そこで、企業法務担当者は、株主提案権の行使要件を満たしているか検討するだけでなく、それと合わせて提案を上程しなかった場合にどのようなリスクが有るかを検討し、どのように対応すべきかをあらかじめ決定しておくことが必要です。
次回は、株主総会において、取締役の説明義務を果たさなければならない場面にフォーカスを当て、「取締役の説明義務について」を記事としてご紹介させていただきたいと思います。
(文責:matsuyama)
<参考記事>
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