【コラム】事業部門から見た法務部門
2022/01/14 法務部組織
1.法務部門と事業部門の関係
私は大手の建設系会社において通算半世紀に及び法務部門に在籍している。この経歴を聞いた多くのビジネスパーソンは私に対し、
「法律やコンプライアンスのルールといった難しくてとっつきにくいことばかりを口にする人間、往々にして事業の妨げになる主張をする人間」
といった印象を抱くのではないだろうか。実体験としても、そのような第一印象を抱かれることは少なくない。むろん、法務部門の重要性を否定する人はいないし、違法行為やコンプライアンスに抵触しても問題ないと考えている人もいない。法律やコンプライアンスの部分で一つ間違えば会社にも大変な損失を与えることは万人に周知の事実である。
では、法務歴の長い人間と聞いて、上記のような印象を抱かれるのはなぜだろうか?
とどのつまり、事業部門が求めているものと法務部門が提供するものに相違があるのだと思う。
会社の法務部とは(この点では外部の法律事務所も同様な筈だが)、事業部門の実業を問題なく進ませるための一助を担っているわけである。事業会社であれば事業で収益を上げているのであり、法務部門が収益を上げているのではない。
コンプライアンスが重視される時代となり、法務部門の地位はある種、確固たるものとなった。特に大企業においては、その中身の如何を問わず、法務部門を保有していること自体が、コンプライアンス遵守企業としての証とさえ言われるようになった。ただ、それは法務部門にとってよいことばかりではない。
コンプライアンス重視の時代となり、かえって、事業部門との距離が遠くなってしまっているように感じるのだ。
この理由はいかなるところにあるのだろうか?
2.法務部門の仕事の本質
つまるところ、法務部門はあくまでも事業部門へのサービス提供部門である。すなわち事業部門が違法行為を回避し、コンプライアンスに抵触することなく、健全な利益を最大化し損失を最小化することに間接部門として貢献することに意義がある。
したがって事業部門からの相談に対し、法務部門としては、違法の有無を述べるに留まらず、「具体的に~をするのが望ましい」と、ビジネスに深く踏み込んだアドバイスをすることが求められる。
(むろんそのアドバイスをどこまで斟酌するかは事業部門の判断によるが・・・。)
もっとも、そのレベルでビジネスに踏み込んだアドバイスは、正直、法務部門のみ、さらに言うと、他の人事・経理などといった間接部門のみの経験者にこれを求めるのは無理があると思う。無論、間接部門の仕事は事業部門の仕事に比べ、お世辞にも楽であるということはない。何であれ、仕事となれば厳しいのは当たり前である。しかし、当事者意識を持ってビジネスに関わる経験なしに、実業への理解は深まらない。
3.法務部員には事業部門経験を必須とせよ。
結局のところ、法務部門は事業部門に対し、「自分達は有益なアドバイスをしている」と自己満足に陥ってはいけないと考えている。事業部門のニーズは様々で、必ずしもまともなものばかりでもないが、少なくとも、法務部門は事業部門のために存在するのであり、自己完結的に事業を行い収益を上げている部門ではないのは確かである。
事業部門から、「こんな法務であれば要らない」と言われるような法務部門であれば、そのとおり、存在意義のない部門と評価されても仕方がないと考える。
詳細な内容は次号以下に譲るとして、法務部門からアドバイスを受ける立場にある事業部門に言わせれば、「(事業部門が行っている)実業というものをわかっているのかどうか?」という点が、法務部門に対する評価の決め手となると思う。
一度、事業部門側が、「法務部門は実業がわかっていない」と判断してしまうと、法務部門からのアドバイスは傾聴に値しないと判断し、法務部門の必要性を疑問視し始めることになる。
その点から考えても、法務担当者が、一度、事業部門の業務を実際に肌で経験することの意義は大きい。事業部門での実体験が事業部門に対する説得力にも繋がる。
いくら、法務側が頭でわかっているつもりでも、実業においては、実際に体験してみないとわからないことが非常に多いからだ。
もちろん、事業部門に在籍歴のある法務担当者が、かつての身内である事業部門に甘くなってしまうというリスクはある。しかし、「事業部門に対する説得力」は、法務部門の存在意義を支える幹となる部分だ。やはり、法務担当者は、一度は一定期間、事業部門で仕事をする経験を積むべきだと考える。最近は入社時より法務部員として社会人生活を始める若手も増えてはいるが…。
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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。
【筆者プロフィール】
建設系の会社の法務部門に通算20数年在籍し、国内・海外・各種業法・コンプライアンス関連などほぼ全ての分野に携わった経験を持つ。事業部門経験もあり、法務としてもその重要性を事あるごとに説いている。米国ロースクールへの留学経験もあり、社内外の人脈も広い。 |
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