安売り禁止令?
2013/04/26 税務法務, 租税法, 税法, その他
事案の概要
4月25日、財務省の山口俊一副大臣は、消費増税の際にスーパーなどによる「消費税還元セール」を禁止した転嫁特別措置法案(消費増税転嫁法案)について「『春の応援セール』や『3%値下げ』は(禁止に)該当しないと判断している」と述べ、こうした表現をうたうセールを容認する考えを示した。
政府の安売り宣伝禁止には小売業界から反発が出ており「還元」を連想しないセールに限って実施を認めるとしている。
政府は消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げることにしている。その際、スーパーなどが増税分を上乗せしなかったり、商品の納入企業に仕入れ価格を抑えるよう圧力をかけたりすることを防ぐため、法案では還元セールを禁止した。
政府は、法案の規制対象外である一般のセールについて、違反となる表現を秋に指針で示す考えである。ただ24日の衆院経済産業委員会で消費者庁の菅久修一審議官が「消費税に関連した安売りと認識されれば、禁止される」と述べ、「3%値下げ」などの表現規制に対する懸念が浮上していた。
同法案を巡って、小売店業界では「戸惑う大手と歓迎する中小」というようにその評価は分かれている。
【消費増税転嫁法案】
同法案は、大型スーパーや大企業が商品を仕入れる時、それを収める業者が仕入れ価格に消費増税分を上乗せ(転嫁)するのを拒否してはいけないとするものである。
また、同時に「消費税を還元する」などとうたって安売りすることも禁止する。
違反した場合の罰金など罰則規定は設けられないが、公正取引委員会などの指導を受け、それでも従わない場合には公取委が会社名を公表する。
同法案は2017年の3月末までの期限付きのものである。
【具体例】
許される表現
・「宣伝せずに価格据え置き」
・「一部商品のみ、税率と関係なく値引き」
・「春の応援セール」
・「3%値下げ」
セールの中身によって禁止の可能性
・「価格据え置きセール」
・「生活応援全品価格据え置きセール」
禁止可能性大
・「3%還元セール」
禁止
・「消費税還元セール」
・「消費税分ポイント還元」
・「消費税はいただきません」
コメント
仕入先である中小企業が大手の圧力により消費税分安く買い叩かれてしまう実態から同法案は持ち上がった。
同法案には、中小企業を保護し日本経済全体の活性化に繋げたい政府の思惑が垣間見える。
しかし、一方で、以下のような疑問も出てくる。
・セール表現の禁止範囲が不明確であれば、何が禁止されているか明確には分からなくなる。結果的に、禁止されていない表現も行使することに躊躇して実際上行使できなくなるのではないか。
・また、消費増税転嫁法案は違反した場合の罰金など罰則規定を設けず、制裁的に会社名を公表することになっているが、会社名を公表するだけで効果が得られるのか。
・そもそも、セール表現の禁止は、仕入先へ消費税を実質負担させている実態の解消につながるのか。手段として適切といえるか。
これらの疑問は、同法案が憲法21条1項「表現の自由」や22条「営業の自由」に抵触するのかという問題と密接に関連してくる。
同法案は2017年3月までの期限付きでその制約が限定的であるが、表現の規制対象が不明確・広範であれば上記の憲法上の問題が急浮上してくる。
政府による今後の規制項目に関する指針が注目される。
参考資料
【営利的言論】
営利的言論とは、一般に営利広告のように、営利目的ではあるが、表現行為の形態をとるものを指すといわれている。コマーシャル・スピーチ(commercial speech)ともいう。
営利的言論が、表現の自由(※1 憲法21条1項)の行使とみるか問題とされてきたが、近時、広告のような営利的な表現活動であっても、国民一般が消費者として広告を通じてさまざまな情報を受け取ることの重要性にかんがみて、学説において一般に表現の自由の保護に値する、と考えられている。
営利的言論、すなわち広告規制の合憲性を判定するための違憲審査基準を明らかにした日本の最高裁判所の判例はない。
※1 第21条1項「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」
【営業の自由】
営業の自由とは、人が自己の選んだ職業を営む自由であり、経済的自由権の1つである。憲法上、営業の自由を保障する明文は存在しないが、職業選択の自由を保障する憲法22条1項(※2)がこれを保障しているとするのが通説である。なぜなら、職業選択の自由を認めても、営業の自由(職業遂行の自由)を認めなければ、職業選択の保障が無に帰するからである。
※2 第22条1項「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」
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