ネガティブ・オプションの業者を7都県が処分 通信販売社会の陥穽
2013/06/12 消費者取引関連法務, 特定商取引法, 個人情報保護法, その他
事案の概要
11日、東京都等の7都県は、注文していない消費者に電話をかけ、「注文を受けた」などと嘘を告げて健康食品を購入させていた株式会社スフィーダと東洋食品合同会社の2社に対し、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」)第23条第1項に基づき、電話勧誘販売を6か月間停止すべきことを命じた。
2社は、実際には購入の申込みを行っていない消費者に対し、「注文を受けた商品を送ります」と電話をし、注文した覚えが無いと言われても、「既に作ってしまったからキャンセル出来ない」、「注文した声を録音している」、「裁判にする」などと言って勧誘していたという。両社とも、健康食品を購入したことのある消費者の名簿を別の業者から購入し、高齢者を標的にしていた。
勧誘を受けたり、それに応じて代金を支払ってしまった消費者から、2社に関する相談が相次いだため、東京都・栃木県・埼玉県・神奈川県・静岡県・群馬県・千葉県の7都県が合同で調査を実施していた。2社が違反行為を認めたため、上記都県は同時に処分を行った。
購入させられた人が現在も誤認したままの可能性もあり、行政は、消費生活センター等への相談を呼びかけている。
コメント
注文の事実が無いにもかかわらず事業者が消費者に商品を送付した上で、売買契約の申込みを行ったり、契約の成立を主張して代金を請求する方法は、「送りつけ商法」や「ネガティブ・オプション」と呼ばれる。ネガティブ・オプションは、その性質上、虚偽告知や事実の不告知を伴う事が殆どであり、トラブルが多発している。カニ等、日持ちのしない魚介類を送りつけ、返品すると駄目になって勿体無いという気持ちを抱かせて返品をためらわせる方法が有名だが、本件も含めて共通しているのは、高齢者を主なターゲットにしている事である。
若者でも既に持っている本をついうっかりまた買ってしまう事等はありがちだが、記憶力が低下する高齢者は「自分の方が注文した事を忘れているのかもしれない」と思い込まされやすい。近年は外出が困難な高齢者が通信販売を利用する例も多く、自分が何を注文していたか完全に把握しづらくなっている。インターネットを利用した通信販売と違い、電話販売では購入履歴が残りにくい事も誤認に拍車を掛けている。更に、本件のように「キャンセル出来ない」、「裁判を起こす」等の虚偽や恫喝をまじえられると、正常な判断がしにくくなるものである。
行政は、対策として、「覚えの無い商品を受け取らない事」、「トラブルが生じたら迷わず警察や消費者生活センター等に相談する事」を挙げている。その前段階として、メモ等を利用して極力記録を残す、自分の記憶力・判断力を過信しないといった基本的な生活態度による自衛が鍵となる。この点は、特に高齢者に重要であるとしても、老若男女に共通すると言えよう。
本件の問題点は、個人情報の点にもある。今回処分を受けた2社は、電話を掛ける相手の情報を別の健康食品業者から購入していた。個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」)は、個人情報の適正な取り扱いにより個人の権利利益を保護する事を目的として定められた法律であるが、その義務規定の対象は、国・地方公共団体及び個人情報取扱事業者である。個人情報取扱事業者とは、5000人以上の個人情報に関するデータベースを事業の用に供している者をいう(個人情報保護法第2条第3項。)。つまり、これに当たらない事業者は同法の義務を課されない。
また、個人情報取扱事業者であっても、本人の求めがあれば提供を停止する事等の要件を満たせば、個人情報を第三者に提供出来る(個人情報保護法第23条第2項)。しかし、一瞬で全世界に情報が拡散する現代においては、本件のように業者間での情報のやり取りは容易であり、消費者の側が自身の個人情報を持つ業者を特定して提供前にその停止を要請する事などは至難と言ってよい。
個人情報に関しては、根本的な解決は困難としても、法による保護の限界・情報化社会の危険性を認識し、慎重に行動する事が消費者側に求められよう。
関連条文
特定商取引法
(業務の停止等)
第二十三条
1 主務大臣は、販売業者若しくは役務提供事業者が第十六条から第二十一条までの規定(筆者注:不実告知や迷惑勧誘の禁止等)に違反し若しくは前条各号に掲げる行為(筆者注:主務大臣の指示に従わない行為)をした場合において電話勧誘販売に係る取引の公正及び購入者若しくは役務の提供を受ける者の利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は販売業者若しくは役務提供事業者が同条の規定による指示に従わないときは、その販売業者又は役務提供事業者に対し、一年以内の期間を限り、電話勧誘販売に関する業務の全部又は一部を停止すべきことを命ずることができる。
なお、上記主務大臣の権限は、政令により、都道府県知事が行うことが出来る(特定商取引法68条)。
個人情報保護法
(定義)
第二条
3 この法律において「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者をいう。ただし、次に掲げる者を除く。
一 国の機関
二 地方公共団体
三 独立行政法人等(独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律 (平成十五年法律第五十九号)第二条第一項 に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)
四 地方独立行政法人(地方独立行政法人法 (平成十五年法律第百十八号)第二条第一項 に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)
五 その取り扱う個人情報の量及び利用方法からみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして政令で定める者
(第三者提供の制限)
第二十三条
2 個人情報取扱事業者は、第三者に提供される個人データについて、本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止することとしている場合であって、次に掲げる事項について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置いているときは、前項の規定にかかわらず、当該個人データを第三者に提供することができる。
一 第三者への提供を利用目的とすること。
二 第三者に提供される個人データの項目
三 第三者への提供の手段又は方法
四 本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止すること。
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