食品表示と企業責任
2014/06/18 広告法務, 消費者取引関連法務, 食品衛生法, その他
事案の概要
6月17日、消費者庁はアレルギー物質である卵の表示が欠落したいなり寿司の回収情報を消費者庁のサイトに掲載した。当該表示欠落は、ラベル貼り間違いによるものであった。また、同日、表示にある「とろサーモン」ではなく「えびマヨネーズ」を使用していたため、アレルギー物質であるえびの表示が欠落した寿司等の回収情報も掲載されている。その他、6月に入っておにぎりと焼肉のたれについて、アレルギー物質である小麦の表示欠落を理由とする回収情報が掲載された。いずれも、アレルギー症状が発生する可能性があるとのことである。
アレルギー物質の表示については食品衛生法および食品衛生法施行規則により規制されており、発症件数が多い又は症状が重篤になりやすいとの理由で表示が義務化されているものは7品目である。卵や小麦はその7品目に含まれる。
近年では、児童相談所が一時保護した児童に職員がちくわを与えたところ、卵アレルギーによるアナフィラキシーショックで死亡したとして損害賠償請求訴訟が提起された事例があり、第一審では5000万円余の損害賠償責任が認められた。控訴審で第1審判決は覆されたものの、その理由はアレルギーと死亡の因果関係が立証されていないというものであり、因果関係さえ証明されれば、責任が認められる可能性は残されている。また、アレルギーを有する人の数について正確なデータは存在しないが、全人口の1~2%(乳児に限定すると約10%)ほどであると推計されている。
これらのことからすると、たとえ単純なミスによる表示欠落であるとしても、食品に関わる企業が過失による損害賠償責任を負うリスクは低くなく、今後も行政および消費者の厳しい目にさらされることになるといえる。
コメント
食品表示については安倍政権が成長戦略として食品の機能性表示(保健機能食品の栄養成分や効能などを記載した表示)の規制緩和を打ち出している。これは、従来の煩雑な手続を経なくても企業の責任で食品の機能性表示をできるようにするというものである。「スリム」は「やせる」という印象を直接的に与えるため規制対象となるが、「スマート」は「賢い」という意味も持つ多義的用語であるから規制を受けないなどの不合理性の排除が期待されている。また、煩雑な手続が不要になることで企業の商品開発のスピードアップやコストダウン、機能性表示による消費者の購買意欲増進による市場拡大への期待も高まっている。その一方で、科学的根拠のない機能性表示が氾濫するのではないかとの懸念もメディアなどで取り上げられている。
こうした規制緩和に伴い、食品表示内容について企業自らの責任に任される部分が増え、消費者自らが情報の真偽を判断する状況になれば、消費者の食品表示についての関心は強まるものと考えられる。アレルギー表示については規制緩和されるわけではないが、食品表示についての消費者の関心や企業の責任の重大性が、近年の誤表示問題と相俟ってますます増していくとすれば、アレルギー表示についても厳しい目が向けられることになる。アレルギー表示欠落は消費者の信頼のみならず健康をも損なうおそれがあることから、企業としては食品表示を巡る法改正等および自社商品についての情報の周知徹底はこれまで以上に重要性を増していくと考えられる。
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