書籍の自炊代行と法的問題点
2015/09/16 知財・ライセンス, 著作権法, その他
1 概説
自ら所有する書籍を自分で利用するためにデジタル化する行為(いわゆる「自炊」)は、現時点では著作権法上の問題はないとされている。しかし、スキャンされたデータはコピーが容易で劣化せず、またインターネットに違法アップロードされる危険があるとして、出版業界には電子書籍化行為のビジネスへの影響を懸念する意見がある。そこで、自炊増加に伴い登場した新しいビジネスである「スキャン代行ビジネス」について、著作権との関連で法的問題点について取り上げる。
2 自炊行為と権利制限規程
書籍等については作者や出版者に著作権が認められているため、「自炊」行為が複製権を侵害するのではないかということが問題になる。
著作権法30条1項は、著作物は、「私的使用」を目的とするときは、その使用者が複製することができると規定し、私的使用のための複製については著作権侵害行為とはならない旨規定している。また、「複製」とは「印刷、写真、複写、録音その他の方法により有形的に再製すること」(著作権法2条1項15号)と定義されており、書籍等をデジタルデータに変換することも複製に該当することになるので、「自炊」が著作権法第30条1項の私的使用のための複製と言えれば著作権法上は問題にはならない。
3 複製行為の主体の判断
(1)問題点
2で述べたように複製主体が私的使用目的で複製していれば著作権法30条の適用をうけるが、主体が代行業者であれば利益取得目的があるので同条の適用を受けない。そのため、自炊代行行為の違法性は複製主体が誰かにより決まるので複製主体の判断基準が重要になってくる。
(2)複製主体の判断基準
裁判所は、誰が「複製」したのかを判断する基準について、「複製の実現における枢要な行為をした者は誰かという見地から検討するのが相当」であり、その判断要素として、「複製の対象、方法、複製物への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して判断するのが相当である。」と判示している。なお「複製の実現における枢要な行為」とは、複製の過程で一番重要な行為を示し、その一番重要な行為を行った者が複製の主体であると考えている。
(3)裁判所の判断
裁判所は複製の過程において一番重要な行為は、本の内容を電子ファイルとして有形的に再製する行為、すなわち、裁断した本をスキャナーで読み込みデータ化(電子ファイル化)する行為と判断し、スキャン・電子化行為が「複製における枢要な行為」にあたることを理由に、複製主体は自炊代行業者のみであって、利用者は全く関与していない以上、「複製」をしたのは自炊代行業者であると判断している。(東京地判平成25年9月30日、同平成25年10月30日)
4 コメント
そもそも自炊代行は、利用者が私的利用のために、利用者自ら注文してはじめて自炊代行業者がデータ化をする行為といえるので、自炊代行業者はただの手足として利用者の代わりにデータ化作業を行っているだけとも考えられる。電子書籍文化が広がりを見せている現状では、電子書籍化されていない本もデータ化したいと感じるのは自然であるので、そのニーズに応えて著作権者の利益を害さないよう利用者の利益の調和を図れる判断がなされることを今後期待したい。
関連コンテンツ
新着情報
- 解説動画
- 奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
- 登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
- 潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分
- まとめ
- 今年秋施行予定、改正景品表示法の概要2024.4.25
- 昨年5月に成立した改正景表法が今年秋に施行される見通しです。確約手続きの導入や罰則規定の拡大...
- セミナー
- 石黒 浩 氏(大阪大学 基礎工学研究科 システム創成専攻 教授 (栄誉教授))
- 安野 たかひろ 氏(AIエンジニア・起業家・SF作家)
- 稲葉 譲 氏(稲葉総合法律事務所 代表パートナー)
- 藤原 総一郎 氏(長島・大野・常松法律事務所 マネージング・パートナー)
- 上野 元 氏(西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 パートナー)
- 三浦 亮太 氏(三浦法律事務所 法人パートナー)
- 板谷 隆平 弁護士(MNTSQ株式会社 代表取締役/ 長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
- 山口 憲和 氏(三菱電機株式会社 上席執行役員 法務・リスクマネジメント統括部長)
- 塚本 洋樹 氏(株式会社クボタ 法務部長)
- 【12/6まで配信中】MNTSQ Meeting 2024 新時代の法務力 ~社会変化とこれからの事業貢献とは~
- 終了
- 2024/12/06
- 23:59~23:59
- 弁護士
- 髙瀬 政徳弁護士
- オリンピア法律事務所
- 〒460-0002
愛知県名古屋市中区丸の内一丁目17番19号 キリックス丸の内ビル5階
- ニュース
- 宝塚歌劇団が法人化でガバナンス強化、内部統制システムとは2025.1.16
- NEW
- 阪急阪神ホールディングスは、現在子会社の1部門となっている「宝塚歌劇団」を法人化することによ...
- 弁護士
- 目瀬 健太弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号
- 業務効率化
- Legaledge公式資料ダウンロード
- 解説動画
- 斎藤 誠(三井住友信託銀行株式会社 ガバナンスコンサルティング部 部長(法務管掌))
- 斉藤 航(株式会社ブイキューブ バーチャル株主総会プロダクトマーケティングマネージャー)
- 【オンライン】電子提供制度下の株主総会振返りとバーチャル株主総会の挑戦 ~インタラクティブなバーチャル株主総会とは~
- 終了
- 視聴時間1時間8分
- 業務効率化
- 鈴与の契約書管理 公式資料ダウンロード