「自炊」代行業訴訟に見る著作権法と複製権
2016/03/22 知財・ライセンス, 著作権法, エンターテイメント
はじめに
本や雑誌をスキャナーで読み取り電子化する「自炊」の代行業者に、作家浅田次郎さんら7人が著作権侵害であるとして複製差止と賠償を求めていた訴訟で、3月17日最高裁は業者の上告を受理しない決定を下し業者敗訴が確定しました。いわゆる自炊行為と著作権法の複製権について見ていきたいと思います。
「自炊」とは
書籍、雑誌等を裁断し1ページごとにスキャナーを使って読み取り、電子データ化することを一般に自炊と呼ばれています。データを自分で吸い出すことからこのように呼ばれるようになったようです。アップル社のiPadやアマゾン社のKindleのように電子ブックリーダーで電子化された書籍をダウンロードして読めるようになってきましたが、その種類や数はまだまだ紙媒体の書籍に追いついておらず、ユーザーが好きな書籍を自分で電子化してデータを読み込むようになりました。しかしこの行為には裁断や読み込みといった作業が必要であり相当の手間を要します。そこでこれらの作業を代行する業者が現れました。この業者による代行が著作権法に違反しうると言われています。
複製権
著作権法2条1項15号によりますと「複製」とは印刷、写真、複写、録音その他の方法により有形的に再製することとされています。また21条では、著作者はその著作物を複製する権利を専有すると規定しています。著作権法によって保護された著作物を複製することは原則著作者にのみ認められております。一方30条1項では個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、その使用する者が複製することができると規定しています。例外的に私的使用のためであれば、その範囲内で自分で複製することも許容されています。自炊行為はまさにこの例外に当たり、著作権侵害にはあたりません。しかしこの行為を代行業者が行った場合は「その使用する者が複製」しているとは言えず著作権侵害に当たるのではないかという点が本件での争点です。
「使用する者」とは
著作権法30条1項に言う「使用する者」とは、著作物を所有又は使用する権利を有する本人を指すことは間違いありませんが、その者を補助する立場にある者、いわゆる手足となる者もその範囲に含まれると考えられております。例えば親の所有する書籍やCD等を子が複製したりする場合等が挙げられるでしょう。では代行業者は手足と言えるのかという点については争いがあるようです。
判旨
一審二審はこの点について、複製の枢要な部分を行っているのは業者であり、私的複製とは言えず著作権を侵害するおそれがあるとしました。そして最高裁は、業者が大規模に客を募って行う自炊代行は私的複製に該当しないことは明らかとして30条1項の場合に当たらず違法であるとしました。
コメント
本件で代行業者側は、複製の主体は顧客であり、業者は顧客の手足として著作権法が認めている私的複製を補助しているだけであると反論していました。しかし最高裁は業者が事業として大規模に行う場合はもはや手足として補助し、使用者と同視できる者から逸脱していると判断しました。原告らは、このような状況が続くと将来著作権保護が形骸化し著作活動としての業界が成り立たなくなると警戒しています。この問題の根底にあるのは、ネット等による拡散が容易な電子データ化を業者がに行うことによって大規模な著作権侵害が横行することを防ぐべきとの価値判断だと思われます。近年自炊代行者を装い書籍等の海賊版を販売していた業者が摘発され、またウィニー等といったファイル共有ソフトを使った世界規模の著作物の流出が後を絶たない状況です。今回の自炊代行が違法であるとする最高裁判決によってある程度は歯止めが効くことになるかもしれませんが、使用者自ら行う場合は適法であり、著作権保護の抜本的な見直しが必要と言えるでしょう。
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