法制審議会、濫用的株主提案制限への動き
2017/02/13 総会対応, 商事法務, 会社法, その他
はじめに
法務省法制審議会では9日、一人の株主が大量の提案を提出するなどの濫用的株主提案の制限に向けて会社法を改正する方向で検討していることがわかりました。近年、総会議事運営の停滞を招く濫用的株主提案を抑制すべきとの声も高まっておりました。今回は株主提案権について見ていきます。
株主提案権とは
株主提案権とは一定の議決権を有する株主が予め株主総会に議題または議案を提案することができる権利です(会社法303条、304条)。この制度は昭和56年の商法改正で導入されたもので、会社の経営者と株主相互の対話を促進し、株主の疎外感を払拭することを目的としたものです。導入後は外資系投資ファンドを中心に利用されましたが、近年明らかに議事運営の妨害や嫌がらせを目的としたいわゆる濫用的株主提案も少なくない状況となってきました。以下株主提案権の要件等を見ていきます。
議題提案権と議案提出権
株主提案には議題提案権と議案提出権があります、議題提出権とは一定の事項を会社が招集する株主総会の目的(議題)とすることを請求する権利を言います。たとえば「取締役解任の件」や「定款変更の件」といったように議題の追加を求めるものです。議案提出権とは株主総会の目的となっている議題について議案を提出する権利をいいます。たとえば議題である取締役選任について「A氏を取締役に選任する」といったものです。この議案提出については一定の制限があり、法令・定款に違反するもの、また一度提出して議決権の10%以上の賛成を得られなかった場合は3年間同一内容の提案はできません(304条但書)。
提案権行使方法
取締役会設置会社では総株主の議決権100分の1以上または300議決権以上を6ヶ月前から引き続き保有する場合に議題を株主総会の目的とすること、また議案を他の株主に通知することを請求をすることができます(303条、305条)。取締役会が設置されていない会社の場合はこのような制限はありません。以上の要件を満たす株主は代表取締役に対し株主総会の日の8週間前までに請求する必要があります(303条1項、305条1項)。これらの要件は定款によって緩和することも可能です。
株主提案を無視した場合
株主からの議案提出権を無視した場合株主総会招集手続に法令違反があることになり株主総会決議取消の訴えの対象となると言われております(831条1項1号)。一方議題提案については、そもそも株主総会の目的とはなっておらず招集手続に違反があるとは言えないことから決議取消の訴えの対象とはならないとされております(東京地判昭和60年10月29日)。なおいずれの場合でも罰則規定により100万円以下の過料の対象となります(976条19号)。
濫用的株主提案について
一人の株主が63個もの議題・議案を提出し、招集通知に記載することを命じる仮処分を申し立てた事案で裁判所は「株主提案権といえども、これを濫用することが許されないことは当然であって、その行使が、主として、当該株主の私怨を晴らし、あるいは特定の個人や会社を困惑させるなど、正当な株主提案権の行使とは認められないような目的にでたものである場合」には権利濫用となるとしています(東京高裁平成24年5月31日HOYA株式会社事件)。
コメント
以上のように株主提案権は一定の議決権要件を満たしていれば行うことができ、それ以外の制限がないことから一部の株主により膨大な提案がなされることがあります。株主と経営者の対話促進を目的とした制度が一部の濫用により逆に他の株主との対話を阻害しているとの指摘があります。上記高裁判決により一般論として一定の場合には濫用として無効である旨示されましたが基準としては不明瞭で濫用的提案の抑制としてはあまり期待できないといえます。そこで株主一人あたりの提案数に制限を設けることや取締役の説明義務の例外規定に準じた制限規定を設けることなどの濫用防止規定を設けるべきとの声が上がっております。多数の株主提案がなされた場合、予め弁護士等と相談して想定問答を作成したり招集通知を作り直す等で相当のコストを強いられることになります。正当な提案を萎縮させず、かつ総会運営を停滞させないような制度改正が望まれます。
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