民法改正 消滅時効について
2017/09/07 金融法務, 債権回収・与信管理, 民法・商法
1.はじめに
2017年5月26日、「民法の一部を改正する法律案」および「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」が国会で成立し、民法改正が行われる運びとなりました。施行はまだ先となりますが、これにより、民法の多くの条項とその内容の変更がなされます。
それらの中で、ここでは消滅時効についてのルールの変更を取り上げ、解説させていただきます。
2.消滅時効とは
消滅時効とは、権利が一定期間行使されない場合、その権利を消滅させる制度をいいます。また、この一定期間のことを「時効期間」、時効期間の算定開始時点を「起算点」といいます。
存在していたはずの権利を認めないことは、一見不合理のようにも思われますが、長年続いた事実状態の尊重・錯綜の防止の観点のために制定されたルールです。
3.消滅時効改正の重要なポイント
今回の消滅時効における改正の重要なポイントは、以下の5点です。
(1)債権の消滅時効の原則的期間の追加
現行民法では、166条、167条1項で、債権は、行使できる時から10年間行使しないときは消滅すると規定されています。これに対し、改正民法166条では、上記要件に加え、債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないときにも債権が時効消滅するとされます。
これは、原則的な時効期間が長すぎるとの理由から追加されたもので、時効期間の起算点を客観的なものと主観的なものとの2本立てとし、主観的要件の追加により時効期間の短縮を実現させました。
(2)商事消滅時効の制度の廃止
商事時効を定めた商法522条が削除されます。
削除の理由は、適用される「商行為」の範囲が容易に判断できない場合があるためです。これにより、商事債権についても民法のルールで統一的に処理されます。迅速性・簡易性を図るために規定された商事消滅時効が廃止されたとしても、上記の通り、時効期間を5年とする改正民法166条が制定されましたので不都合はないと考えられています。
(3)職業別の短期消滅時効制度の廃止
職業別の短期消滅時効制度を定めた現行民法170条~174条が削除されます。
これは、職業が多様化した現在、職業別で時効期間を短縮する意味があるのかという問題が提起され、廃止に至りました。
(4)生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効
一般的な不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、損害及び加害者を知った時から3年です(現行民法724条)。また、債務不履行に基づく損害賠償請求権は、上記(1)の通り5年ないし10年です。
しかし、それでは時効期間が短く、被害者保護の見地から不十分であると考えられます。そこで、生命・身体が侵害された場合にのみ、不法行為の場合の期間を5年間に(改正民法724条の2)、また、債務不履行の場合、行使できる時から20年とし、例外的に時効完成期間を延長しています。
(5)協議を行う旨の合意による時効完成猶予制度の新設
協議による時効完成猶予の主なルール(改正民法151条)は以下の通りです。
① 当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面又は電磁的記録による合意があったときは、次の時点のいずれか早い時まで時効は完成しない。
ア その合意があった時から1年経過した時
イ 合意で協議期間が1年未満と定められていたときは、その期間を経過した時
ウ 当事者の一方が相手方に協議続行拒絶を書面又は電磁的記録で通知した時から6か月経過した時
② 当事者は上記①で時効が猶予されている間に改めて上記①の合意ができる。ただし、その期間は、本来の時効完成時点から合わせて5年を超えることができない。
③ 上記①の合意は、本来の時効完成時点までに行わなければならない。催告によって時効完成が猶予されている間に行っても時効完成猶予の効力はない。
この制度は、時効中断のために過度に訴訟が提起されることを防ぐために規定されました。
4.おわりに
今回の民法改正により、時効期間をはじめ様々な改正がありました。その中でも、消滅時効は、債権を扱うあらゆる個人ないし企業が関与する、身近な問題です。
そして、権利自体が消滅するため、極めて強い効果を持ちます。とりわけ、時効期間が権利行使可能なことを知った時から5年と短縮されたことは、特に注意が必要となるでしょう。従来通り10年経過するまでは債権が存続すると誤信していると、多大な時間や労力をかけ取得した債権額がゼロになってしまい、大打撃を被る事態が起こりえます。そのようなリスクを負わないためにも、時効の起算点と時効期間を確認し、債権管理を見直すことが大切です。
なお、施行は3年後の2020年と予想されます。法務省の下記URL『民法の一部を改正する法律案』には、「公布の日(2017年6月2日)から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日」とありますが、民法改正が及ぼす社会への影響の重大性を考慮すると、3年いっぱいの2020年1月1日、4月1日が有力視されています(ただし、これはあくまでも予想です。)。
また、改正後の消滅時効が適用されるのは、施行日後に発生した債権のみですので(改正民法附則10条4項)、施行日前に生じた債権については、従来のルールが適用されます。
5.参考文献・URL
川井 信之「改正の全体像と対応モデルスケジュール」ビジネス法務2017.9 12頁
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