取消訴訟でNIPPOが敗訴、建築確認と行政訴訟
2018/05/25
はじめに
避難階段の不備などを理由として完成間近の文京区のマンションの建築確認を取り消した都の裁決を不服としてNIPPOと神鋼不動産が取り消しを求めていた訴訟で24日、東京地裁は請求を棄却していたことがわかりました。今回は建物の建築に必要な建築確認とそれを巡る行政訴訟について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、NIPPO(東京都中央区)と神鋼不動産(神戸市)が東京都文京区に建設中だった地上8階建ての大型マンションに関し周辺住民が都に対し条例違反を理由に審査請求を求め、都は建築確認を取り消しておりました。本件マンションは1階部分にある駐車場と道路の高低差が2.5メートルあり、災害時に外に直接出ることができる「避難所」に当たらないと判断されました。これを受け両社は都の建築確認を取り消した裁決の取り消しを求め東京地裁に提訴していたとのことです。
建築確認とは
更地に新しく建物を建築する場合、または一定以上の大規模な改築を行う場合に着工する前に建築関係法令に適合しているかを行政機関に確認してもある必要があります。これを建築確認と言います(建築基準法6条1項)。新築する場合はどのような建物でも建築確認が必要となり、また床面積が10平方メートルを超える建物の場合は増改築や移転の場合でも必要となります。違反した場合には施工停止命令や措置命令、除却命令(9条各項)などの行政措置がなされ、また1年以下の懲役または100万円以下の罰金が課される場合があります(99条1号)。
建築確認と行政訴訟
建築確認は行政処分の一種であると言われております。しかしあくまでこれから建築しようとしている建物が基準に適合しているかの確認をするだけなのでそこには裁量の余地は無い行政行為とされております。行政処分であることから、建築確認に不服があり取り消しを求める場合は取消訴訟によることになります(行政事件訴訟法3条2項)。一般に建築確認をもらって不服がある場合というのは、確認申請をした施工側ではなく近隣住民ということになります。ではそもそも処分の当事者以外の者が取消訴訟を提起できるのでしょうか。これは一般的に第三者の原告適格の問題と言われております。
第三者の原告適格
誰が訴訟の当事者となれるかの問題を原告適格、あるいや被告適格の問題と言います。行政事件訴訟法9条では「取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」に原告適格が認められております。そしてそれが第三者である場合には処分の根拠法令の文言や趣旨・目的、考慮されるべき利益の内容や性質などから総合的に判断されることになります(同2項)。つまり根拠法令などが公共的な利益として甘受すべきというものではなく個々人の利益として保護しようとしている法的利益がある場合には認められることになります。判例では建物が崩壊した場合に直接被害を受ける住民、日照被害を受ける住民、原子炉の周辺住民、騒音被害を受ける飛行場の周辺住民などに原告適格が認められております。
コメント
本件は建築確認が出されたことに対して周辺住民が取消訴訟を提起したという一般的な事案ではなく、既に周辺住民によって取消しをもとめ行政に審査請求がなされ、それによって取消しの裁決が出されたことに対してさらに業者側が取消しを求めたというものです。本件で問題となったのは建築基準法上の避難場所や避難経路に関するものです。建築基準法は周辺の安全性も考慮していることから周辺住民にも原告適格は認められやすい事例と言えます。審査請求で認められなかった場合は住民による訴訟提起が予想されたと言えます。また判例上、仮に住民から提起されても建築が完了してしまえば取り消す意味がなくなるとして棄却された例もあります(最判昭和59年10月26日)。このように建物の建築確認を巡る行政訴訟ではかなり複雑な問題が多く含まれております。マンションや商業施設、福利厚生施設、廃棄物処理施設などの建築を行う際には周辺住民との行政訴訟にも配慮して対策を予め考えておくことが重要と言えるでしょう。
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