所有者不明の部屋がもたらす、マンション管理の危機とその対策方法
2018/09/03 不動産法務, 民法・商法
1 はじめに
2016年、国土交通省はマンションの管理組合に対し「マンションの再生手法及び合意形成に係る調査」を行いました。回答の得られた639組合のうち87組合(13.6%)は「連絡先不通または所在不明者の存在する物件がある」と回答しました。
所在不明者の部屋からは、管理費を徴収できないため、マンション管理が難しいケースが出ています。そこで今回は、不動産管理会社の法務部員様に向け、所在者不明の部屋がもたらすマンション管理の危機と現在検討されている対策方法を紹介したいと思います。
2 所有者不在のリスク
あるマンションでは、所有者不明の部屋につき管理費の滞納が続いており、支払請求権の消滅時効が迫っていたことから、管理組合が家庭裁判所に対し不在者財産管理人の選任を申し立てる決議をしました。不在者財産管理人は、不在者本人や不在者の財産について利害関係を有する第3者の利益を保護するため、財産管理人選任等の処分を行うことができます。しかしながら、部屋を売却したとしても、滞納分に見合う売却代金を得られるかどうかは不透明な状況となっているようです。
所有者が不在であることの最も大きなリスクは、その部屋から管理費が入らなくなることです。また、所有者が不在であると、マンション運営にかかわる重要事項を決められないというリスクもあります。
分譲マンションの管理運営には区分所有法の規定が適用されます。運営方針を決定するための決議につき、通常事項の決定には区分所有者の過半数の賛成、特別決議事項の決定には4分の3、建て替えには5分の4の賛成が必要であるとされています。解体については区分所有法の規定がないため、民法の規定により、区分所有者全員の合意が必要となります。このように、所有者が不在である場合、マンション運営にかかわる重要事項を決められないリスクが発生する可能性があります。
3 相続の問題
居住者の高齢化も進んでいます。所有者が分からなくなるのは、相続に伴って区分所有権の移転登記がされないことに原因があるようです。築50年を超える都内のあるマンションでは、所有者が死亡し管理費の滞納が続いた際に、弁護士に依頼して相続人を見つけ、相続人から管理費等を徴収しましたが、それには多大な労力やコストがかかったようです。同マンション管理組合の理事は、「同じ問題が続けば対応できない」と危惧しています。
マンションの老朽化で資産価値が下がり、管理費も滞納しているマンションは価値に乏しく、相続を放棄するというケースも多いようです。この場合、所有者と相続人を特定しても管理費は回収できないため、ある管理組合は物件の競売という手段で少しでも回収を試みました。競売にかけるコストは高く、それでいて良い値段はつかないため、費用を回収しきれないという結果になってしまうようです。
4 現在検討されている対策
2018年3月、このような状況を受け、東京都は「マンションの適正管理促進に関する検討会」を設置しました。検討会では管理組合に管理状況を5年ごとに行政に届けてもらう制度の創設や、分譲会社などの事業者に対して管理のしやすさに配慮した物件供給に努めるよう求めることなどを検討しています。検討会は11月をめどに報告書をまとめる予定であり、都はそれを踏まえて条例化を検討しているとのことです。
民法上、相続は被相続人の死亡によって開始するとされているため、相続人が何もしなくとも権利が移転することとなっています。政府内では現在、相続登記を義務化し、登記しないと所有権が移転しない制度に改めるべきだとの意見が出ています。また、登記簿と戸籍を連動させ、所有者の情報を円滑に把握できる仕組みも検討しているようです。
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