バイナリーオプション販売で逮捕、特商法の訪問販売規制について
2020/11/05 消費者取引関連法務, 特定商取引法, その他
はじめに
デリバティブの一種であるバイナリーオプション取引をめぐり、高額な情報商材を販売し返金に応じなかったとして、岡山県警は先月、特定商取引法違反の疑いで自営業越智遼容疑者(27)ら4人を逮捕していたことがわかりました。被害総額は3億5000万円にのぼるとのことです。今回は特定商取引法の訪問販売規制について見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、4人はバイナリーオプション取引に関する情報商材をSNSなどで知り合った20代前半の若者中心に50万円で販売していたとされます。中身はバイナリーオプション取引の勝率が上がるなどとうたった投資マニュアルで、販売の際書面に契約解除に関する事項などを記載せず、また返金はできないなどと嘘の説明をしていたとのことです。なかには消費者金融から現金を借りて個別指導代金132万円を支払っていた例もあり、民事訴訟にも発展しております。
バイナリーオプション取引とは
バイナリーオプションとは金融商品の一種で、外国為替証拠金取引(FX)と同様にその後の値動きに応じて損益が確定するものです。ただしFXとは異なり、一定時間後に市場がどのような状態になっているかを二者択一で予想し、当たれば払い戻しが行われるという仕組みです。FXと違い値動きがない相場でも利益を狙えるのが特徴と言われております。追証が無く最大損失額も限定できるとされますがリスクも高く、バイナリーオプションを利用した詐欺も横行していたことから行政からの注意喚起も行われており、国内で取り扱うには金商法上の登録も必要とされます。
特商法上の訪問販売とは
従来訪問販売とは、販売業者または役務提供事業者が営業所等以外の場所、たとえば消費者の自宅に訪問して販売することを言うとされておりました。ホテルや公民館、また路上や喫茶店での販売もこれに含まれます。特定商取引法の平成28年改正により、これに加えて勧誘目的を告げず、または他に比べ著しく有利な条件を告げて来訪を要請して販売する場合が追加されました。この来訪要請には電話、郵便、電子メール、FAX、ビラ、パンフレット配布、住居訪問に加えSNSや出会い系サイトなどを利用した場合も含まれております(施行規則11条の2)。
訪問販売規制
訪問販売の際には事業者は勧誘に先立って氏名、名称、勧誘目的、商品の種類を告げる必要があります(3条)。またその氏名、名称、住所、電話番号、代表者氏名、担当者氏名、商品に関する事項、解除に関する事項などを記載した書面の交付が義務付けられます(4条)。消費者が拒否した場合には勧誘の継続やその後改めて勧誘することが禁止されます(3条の2)。さらに禁止行為として、①虚偽の事実を告げること、②故意に事実を告げないこと、③相手を威迫し困惑させること、④勧誘目的を告げずに誘引した消費者を公衆の出入りする場所以外で勧誘することが挙げられております(6条)。また28年改正で相手方に契約に基づく債務を履行させるため金銭の借り入れや預金引き出しを勧めたり強要する行為も禁止されております(施行規則7条6号等)。相手方が借り入れの際に虚偽の申告をさせたり、銀行やATM、貸金業者に連行すること、執拗にクレジット契約を勧誘することも同様です。
クーリングオフ等
相手方消費者は法定の書面を受け取った日から8日以内であれば書面により申し込みの撤回や契約の解除をすることができます(9条)。これをクーリングオフと言います。このクーリングオフに関して虚偽の事実を告げたり、威迫した場合にはこの期間経過後もクーリングオフが可能です。また通常必要とされる量を著しく超える過量販売契約や不実告知、または故意に事実を告げなかった場合も消費者は意思表示を取り消すことが可能です(9条の3)。この取消権の行使期間は従来6月間でしたが28年改正で1年に伸長されております(同4項)。
コメント
本件で逮捕された4人はSNSや出会い系サイトで知り合った20代の会社員らを誘引し情報商材を紹介して購入をすすめたとされます。これは特商法の訪問販売に該当すると考えられます。また契約に際しても解除に関する事項を記載していない書面を交付し、また返金はできないなどの虚偽の説明を行っていたとされます。これらも特商法の規定に違反すると言えます。28年改正で罰則が強化されており、目的隠匿誘引行為は1年以下の懲役、200万円以下の罰金から3年以下の懲役、300万円以下の罰金となり、法人には1億円以下の罰金となるなど厳罰化されております。また業務停止命令を受け、別法人で業務を行う場合も業務禁止命令が出せるようになっております。顧客勧誘の際にはこれらの規制に該当しないか、今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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