知財高裁で一部変更判決、音楽教室での演奏と著作権について
2021/03/22 知財・ライセンス, 著作権法, エンターテイメント
はじめに
音楽教室での演奏に対してJASRACが著作権使用料を徴収できるかが争われた訴訟の控訴審で知財高裁は18日、生徒の演奏については徴収できないとする判断を示しました。一審東京地裁は教師と生徒いずれにも徴収可としていたとのことです。今回は著作権とその使用について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、2000年の著作権法附則14条削除に伴いJASRACがヤマハ音楽振興会に対し音楽教室での著作権利用許諾手続きを求めていたとされます。これに対し2017年に設立された「音楽教育を守る会」が設立され、音楽教室事業者らによってJASRACを被告とし、使用料請求権不存在確認の訴えが提起されました。一審東京地裁は2020年2月28日、教師、生徒いずれの演奏についても使用料を徴収できるとする音楽教室事業者側全面敗訴の判決を出しております。
著作権とその発生
著作権法2条1項1号によりますと、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」とされております。音楽や美術、文芸、学術など思想や感情が表現されたものが該当し、事実やデータなど思想・感情が含まれていないものは著作物には該当しないと言われております。著作物は特許や商標など他の知的財産権とは異なり出願や登録の必要はなく、創作された時点から自動的に著作権が発生します(17条2項、51条1項)。なにかに記録したり紙面に記載等しなくても、単に即興でその場で演奏した場合であっても同様に発生すると言われております。
著作権の内容
著作権には様々な権利が含まれており、著作権は権利の束とも言われます。具体的には、複製権、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、二次的著作物の利用に関する権利などが含まれます(21条~28条)。著作者には公表権や氏名表示権、同一性保持権といった著作者人格権も認められております(19条~20条)。同一性保持権とは著作物の内容やタイトルなどを勝手に改変されない権利と言われております。また著作者本人ではない著作物の演奏者やレコード製作者、放送事業者等にも氏名表示権や同一性保持権、録音権、放送権などのいわゆる著作隣接権が認められております(89条等)。
問題の所在
著作権法22条によりますと、「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する」とされております。本件で原告側は著作物の利用主体は教師または生徒であり、音楽教室での演奏は公衆が居ないことから公の演奏にも当たらず、また生徒に演奏技法を示すものであるから「聞かせることを目的」としたものではないと主張しておりました。これに対しJASRAC側は、利用主体は教室事業主であり、生徒も「公衆」に該当し、その生徒に「聞かせることを目的」とすることから22条の公の演奏に当たるとしております。
コメント
本件で一審東京地裁は音楽教室側が演奏で利益を上げているのであって、公の演奏についての利用主体、公衆、聞かせることを目的とすることのいずれについてもJASRAC側の主張どおり認め教師、生徒いずれが演奏する場合でも22条の演奏に該当し著作権料が発生するとしました。これに対し二審知財高裁は、生徒は一定の水準以上の演奏を行う義務がなく、自らの技術向上のために演奏していることから演奏主体は教室ではなく生徒本人であり、また特定の教師のみに聞かせていることから公衆に聞かせる目的もないとしました。以上のように著作権は様々な権利の集合体であり、使用主体や使用形態、目的などによって使用料が発生するかが変わってきます。自社で著作物を使用する際にはこれらを踏まえて専門家に相談するなど事前対策を講じていくことが重要と言えるでしょう。
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