Vチューバー動画制作の無償やり直しを繰り返した会社に勧告 ―公正取引委委員会
2024/11/08   契約法務, コンプライアンス, 行政対応, 下請法, エンターテイメント

はじめに


Vチューバーの動画制作にあたり、下請け業者に無償でのやり直しを約240回させていたとして、公正取引委員会は10月25日、下請法違反で「カバー株式会社」に勧告を出しました。

 

200回以上無償でやり直し指示


バーチャルYouTuber、略称VチューバーはアニメやCGキャラクターを使って動画などを作成し、YouTubeに投稿したり、ライブ配信などを行なうYouTuberのことです。ここ数年でVチューバー業界は大きく成長しており、企業の商品PRなどにも多く起用されています。

今回、公正取引委員会から勧告を受けたのは、Vチューバーらが所属する大手事務所の運営会社「カバー」です。カバーではVチューバーのキャラクター作成や動画配信を行っています。

公正取引委員会によりますと、カバーは下請事業者に対し、2022年4月から2023年12月までの期間、発注した動画の受領後に、発注書内の仕様等からは作業が必要であると分からないやり直しを無償でさせていたということです。動画制作を委託していた下請事業者はフリーランス19人を含む23の事業者にのぼり、修正などは合計243回あったということです。

公正取引委員会は、下請法第4条2項4号(不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止)の規定に違反する行為が認められたとして、10月25日に下請法第7条3項の規定に基づき、カバーに対し勧告を行ったと発表しています。

 

下請法が禁じる「不当なやり直し指示」


下請法第4条2項4号では、下請事業者において「責めに帰すべき理由」がないにも関わらず、親事業者が下請事業者に対し、やり直しを指示することを禁止しています。

第4条第2項 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあっては、第1号を除く。)に掲げる行為をすることによって、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
 
四 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。


「下請事業者の責に帰すべき理由」の有無については、下請事業者が適切に契約を履行したかどうかが焦点となります。例えば、

・下請事業者が親事業者からの発注内容に沿わない仕事をしたケース
・下請事業者が製作した商品に欠損があったケース

などでは、やり直しの指示をしても違法とはならないとされています。

逆に言うと、下請事業者が仕様書・発注書どおりに仕事を行い、商品を納品したにも関わらず、やり直しを指示した場合には違法となります。

下請事業者の立場では、こうしたやり直しが認められた場合、委託内容に含まれない作業を行うことになり、人件費や材料費などの追加費用を負担することになりかねないためです。

 

違法なやり直し指示に加え、代金支払いの遅延も


カバーについては、上述した下請事業者に対する違法なやり直し指示に加え、29の事業者に対する、下請代金の支払い遅延も認められています。

下請法第2条の2第1項では、「下請代金の支払期日」に関し、下請事業者の給付を受領した日から60日以内(かつ出来るだけ短い期間内)に設定しなければならないとされています。そして、第4条の2では、この支払期日までに下請代金を支払わなかった場合に、遅延した日数と未払金額に応じ、公正取引委員会規則で定める率による遅延利息を支払わなければならない旨定められています。

今回、カバー側の支払いの遅れは最長で約1年7カ月(2022年7月〜2024年2月)、遅延利息は計約115万円にのぼったといいます。

一部、経理処理の失念もあったとのことですが、社内やVチューバータレントの検査完了に時間を要したことが主な原因とされています。

なお、これらの遅延について、カバー側は遅延利息の支払いを済ませているということです。

 

コメント


納品物の検査に関し、多くの社内外の関係者の確認を経る体制をとっている場合、検査が長期化しがちで、当事者の数の多さの分、様々な切り口からやり直しの要望があがることがあります。
中でも、職位が上の人間からの要望、顧客関係にある社外関係者からの要望についてはできるだけ通そうという意識を持ちがちです。

しかし、下請法上、支払期日が給付受領後60日以内と厳密に定められていることから、60日を超える検査は許されておらず、さらに、仕様にない内容のやり直し指示も認められません。

納品物の検査を取りまとめる担当者において、こうした下請法の規制を熟知し、高い意識でこれを遵守する必要があります。

 

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