ドンキ前社長に有罪判決、金商法の取引推奨について
2021/04/30 金融法務, 金融商品取引法, その他
はじめに
ドンキホーテホールディングス(現パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)へのTOB公表前に知人に自社株購入を勧めたとして金商法違反に問われていた前社長大原孝治被告(57)の判決公判で27日、東京地裁は懲役2年、執行猶予4年を言い渡しました。約6900万円の利益であったとのことです。今回は金商法が規制する取引推奨について見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、ドンキ前社長の大原被告は平成30年9月、同社の株式公開買い付け(TOB)の公表前に知人男性に複数回にわたって同社株の買い付けを勧め、男性は翌10月までに計7万6500株を約4億3千万円で買い付けたとされます。これにより男性は約6900万円の売却利益を得たとのことです。大原被告は取引推奨行為が違法であることは知らなかったとしております。
取引推奨とは
会社関係者や証券会社の社員といった会社の内部情報を知りうる立場の者が、その情報に基づいて株式取引を行い、不正な利益を得る行為をインサイダー取引と言います。従来はこういった内部情報を第三者に提供する行為は規制の対象とはされておりませんでしたが、平成25年金融商品取引法の改正により、このような第三者に株式取引をさせ、利益を得させる行為も違法となりました。以下具体的に要件を見ていきます。
取引推奨の要件
金商法167条の2第1項によりますと、会社関係者が会社に関する重要事実を知った場合、これが公表される前に他人に利益を得させる目的で伝達して株式の売買等を勧めることが禁止されております。規制の対象は会社関係者(元関係者含む)で情報を受け取った者は対象とはされておりません。そして利益を得させ、または損失を回避させるという目的が必要とされます。金融庁が公表しているQ&Aによりますと、業務上必要な社内外での情報交換や情報共有、家族や知人との世間話として話すなど、利益を得させる目的によらない場合は該当しないとされております。ただしこういった場合でも、第三者のインサイダー取引を行う危険を高める可能性があることから上場会社の社内規則等に違反するおそれもあるとされます。そして情報を受けた他人が実際に重要事実の公表前に株取引を行わなければ規制の対象となりません。
違反した場合
取引推奨行為を行った場合、5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(197条の2第14号、15号)。課徴金納付命令の対象にもなっており、重要事実公表後2週間の最高値に買い付け数量を乗じた額から公表前の株価に買い付け数量を乗じた額を控除した額の納付が命じられます。また別途金融庁による行政処分がなされることも考えられます。
コメント
本件でドンキ全社長大原被告は法改正により他人に取引を推奨する行為が規制対象となったことは知らなかったとしておりましたが、東京地裁はコンプライアンスを徹底すべき立場にある被告が安易に反抗に及んだのは強い批判に値するとし、また金融商品市場における公平性・公正性、一般投資家の信頼を大きく害したとして有罪判決を言い渡しました。以上のように現在の金商法では自らインサイダー取引を行う場合だけでなく、第三者に行わせる場合も規制の対象となっております。近年会社関係者だけでなく、主幹事証券会社の職員による情報漏洩からのインサイダー取引が増加していたことから改正にいたったと言われております。また法改正を知らなかったとしても、一般的にそれをもって違法性は否定されないとされます。公募増資やTOBがなされる際には、他人に情報を漏らさないよう周知することが重要と言えるでしょう。
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