衣料品卸会社が東京地裁で初公判、粉飾決算について
2024/06/07 商事法務, コンプライアンス, 金融商品取引法, 会社法
はじめに
粉飾決算をしていたとして金商法違反の罪で起訴された衣料品卸「プロルート丸光」(大阪市中央区)の初公判が6日、東京地裁で行われました。会長らは起訴内容を認め即日結審したとのことです。今回は金商法が禁止する粉飾決算を見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、プロルート丸光の安田康一元会長(62)はコンサルティング会社代表らと共謀し、同社の2020年3月~21年3月の連結会計年度について、実際には損失が出ていたにもかかわらず架空の売上を計上し、利益があったとする虚偽の有価証券報告書を作成し提出したとされます。同社は約6900万円の営業損失を約6300万円の営業利益、約8500万円の経常損失を約5400万円の経常利益、約9500万円の当期純損失を約4300万円の登記純利益と偽っていたとのことです。これにより法人としての同社と元会長ら5人が金商法の有価証券報告書虚偽記載の罪で起訴されておりました。判決は7月22日とされます。
粉飾決算とは
粉飾決算とは、企業が自社の経営成績や財務状態を良く見せるために行う虚偽の決算報告を言います。赤字決算を黒字決算であるかのように見せかけることとも言えます。売上の水増しや売上の前倒し、子会社やグループ会社を利用した売上操作などもこれに該当します。似た概念として「不適切会計」というものが存在します。これは意図的か否かにかかわらず、誤った会計処理がなされた場合を言います。過失も含む点で粉飾決算をは異なります。また粉飾決算とは逆に、良い経営成績や財務状況を悪く見せる場合もあります。これを「逆粉飾決算」と言います。これは一種の脱税行為と言えます。会社の収入や保有資産を少なく計上することによって課税額を少なくすることが目的です。これらの行為はいずれも公正な市場取引を害し、株主や投資家、融資をしている金融機関などのステークホルダーに多大な損害をもたらす行為です。
粉飾決算の具体的な手口
粉飾決算の具体的な手口としては、子会社やグループ企業を使った架空売上や循環取引による収入の水増し、架空の在庫を計上するなどの資産の水増し、費用や経費を翌期以降に計上するなどして過小計上するといった方法が挙げられます。この中でも特に存在しない取引をでっち上げる架空売上の計上は典型例と言えます。通常は取引先からの発注がなければ売上は計上できませんが、子会社やグループ企業を利用することによって架空の売上を作り上げるということです。これを発展させたものが循環取引です。これは架空売上をグループ内の複数の会社を利用して売上を循環させていくというものです。また会計ルール上では在庫は利益とみなされることとなります。そこで存在しない在庫を意図的に増やして計上するという手法もよく見られます。これとは逆に在庫を過小に計上したり、子会社・グループ会社から架空の仕入れを計上する、また売上を意図的に計上しないといった手口で逆粉飾が行われると言えます。
粉飾決算のペナルティ
粉飾決算が行われた場合、上場企業など金商法が適用される会社では有価証券報告書の虚偽記載に該当することとなります。この場合は10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となります(197条1項)。また法人に対しても7億円以下の罰金が規定されております(207条1項)。さらに別途、発行する株券等の市場価格の総額に10万分の6を乗じたもの、または600万円のいずれか大きい方を課徴金として納付することが義務付けられます(172条の4)。また民事責任として粉飾決算が行われている間に株式等を取得した者に対して損害賠償責任も負います(21条の2)。これら金商法が適用されない中小企業の場合でも、刑法の詐欺罪(246条)や、民事責任を負うこととなります。
コメント
プロルート丸光はコンサルティング会社代表と共謀し、架空の売上を計上するという手口で粉飾決算を行い、有価証券報告書に虚偽記載をした疑いで起訴されました。同社は起訴内容を認めており、検察側は安田元会長に懲役2年、同社に罰金1000万円を求刑し即日結審しております。なお同社は今年1月に東京証券取引所から上場廃止となっております。以上のように金商法では売上や在庫などの架空計上による虚偽表示については重い罰則を置いております。また上場会社の場合、これにより株主が多額の損害を受けることもあり、多方面から責任追及がなされることとなります。粉飾決算は在庫や売上などの数字を変えることから、あらゆる部分に齟齬・不一致が生じ、また一度粉飾決算を行えば、それを隠すためにさらに粉飾決算が必要となり最終的に破綻することとなります。目先の一時しのぎのために行うことは非常にリスクが高いと言えます。これらを踏まえ社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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