誹謗中傷をめぐる「有識者検討会」中間報告の内容について
2022/02/21 刑事法, プロバイダ責任制限法, IT
はじめに
度重なるインターネット上の誹謗中傷被害により、これまで自殺や訴訟など多くのトラブルが発生しています。これらのインターネット上の問題に対処するため、2022年1月、「インターネット上の誹謗中傷をめぐる法的問題に関する有識者検討会」が削除対象とできる基準をとりまとめた中間報告を発表しました。今回は、過去の誹謗中傷事案を振り返るとともに、検討会の中間報告の内容を見ていきます。
事案の概要
ネットでの誹謗中傷被害はこれまで、リアリティー番組「テラスハウス」出演の木村花さんの自殺や伊藤詩織さんへのツイート被害などが見られます。これらの被害に迅速に対応するために、法整備が検討されています。日経新聞によると、法制審議会(会長・井田良中央大大学院教授)は2021年10月21日、インターネット上の誹謗中傷対策として、刑法の「侮辱罪」に懲役刑を追加する要綱を古川禎久法相に答申しています。
検討会の発足
2021年4月、法務省が公益社団法人「商事法務研究会」に依頼して発足した「インターネット上の誹謗中傷をめぐる法的問題に関する有識者検討会」(以下、「検討会」)では、法学者・弁護士6人と、法務省、総務省、最高裁がメンバーとして参加しています。本検討会では、主にSNSなどで発信される中傷コメントについて、どのような場合に権利侵害に該当するかなどの論点をとりまとめることとされています。
検討会中間とりまとめ案の7つの論点
中間とりまとめ案においては、ネット上のコメントなどが権利侵害に該当するかどうか、7つの論点から整理されています。具体的には、①違法性・差し止め請求の基準や判断に関するあり方、②SNS上のなりすましへの対応、③ネット上の表現行為の特徴に関する法的な問題、④個別には違法とは言い難い投稿への対応、⑤特定の集団に対するヘイトスピーチ、⑥被差別部落の地名リストの掲載、⑦その他、となっています。これらは現在の取りまとめ案であり、今後の検討により判断基準が明確化されることが期待されます。
リツイートだけでも権利侵害に該当する可能性あり
本検討会では、特定の人物を誹謗中傷するようなツイートをリツイートする行為に対しても、権利侵害に該当する可能性があることを示しています。また、TwitterなどのSNSにある「いいね」機能についても、リツイート同様の扱いにするか検討が行われています。また、④個別には違法とは言い難い投稿への対応に関しては、1回の投稿ではさほど問題とならなくても、継続的に投稿されることで法的な削除対象となる可能性があります。
コメント
誹謗中傷をめぐる法的対応については、かねてから削除すべき投稿の基準が曖昧であることが指摘されていました。ここ数年特に誹謗中傷被害が問題とされているものの、判例の少なさもあり、サイト運営側の自主的な判断で対応しているのが現状です。法務省では2018年1月から2020年10月までの間に「人権侵犯事件」として、サイト運営企業に対して1203件の削除要請を行っていますが、一部または全てを削除したのは全体の68%となっており、基準の不明瞭さが伺えます。一方で、Zホールディングス傘下でコメント機能のあるヤフーニュースでは、独自の人工知能が不適切コメントを削除する取り組みを進めています。さらに、コメントで不適切な投稿を繰り返すユーザーには投稿を制限することも公表しており、サイト運営企業側の対応も進められています。今後、検討会により基準が明確化すれば、サイト運営企業側も基準に準拠した明確な対応が可能になると考えられます。
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