金融庁が「記述情報の開示の好事例集2021」の内容を更新
2022/03/14 金融法務, 金融商品取引法
はじめに
投資家と企業の間で建設的で有益な企業情報の開示がなされるために、金融庁は2018年度以降、「記述情報の開示の好事例集」を更新してきました。「記述情報の開示の好事例集2021」は2021年12月に更新されていましたが、2022年に2月4日に新たに更新がなされ、各項目が追加されました。今回は、事例集の更新された内容について見ていきましょう。
閣議決定の背景
「記述情報の開示の好事例集2021」では、気候変動に関連する開示事例のほか、経営や人材、内部の多様性などに関する開示の好事例集が公開されていました。今般、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」について好事例集が追加され、さらに企業情報開示に関するベンチマークが設定しやすくなっています。
経営方針、経営環境及び対処すべき課題等について
新しく追加された「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等について」では、中長期ビジョン・バックキャストを踏まえて、非財務情報などの価値を創造するために、企業の情報開示は有効であることが指摘されています。また、企業の目標達成に関わる中期経営計画の総括、自社の強みや課題の分析などに関する情報開示も重要な要素とされています。その他、情報開示においては「ストーリー性」が重要であること、「短期、中期、長期」の時間軸を重要度に分けて濃淡をつけること、事業ポートフォリオを全体と個別具体の戦略に分けて開示することなどが記載されています。
事業等のリスクについて
事業等のリスクについては、社内のリスク管理体制や会社が考える重要なリスクの定義、リスクの影響度や発生確率に関する開示が重要であるとされています。また、経営戦略やリスクは各社でそれぞれ異なるため、自社固有のリスクに関して外部に情報を開示することは投資家やアナリストのために重要だと指摘されています。評価されたリスクの重要度が変化した場合は、変化の理由、変化に対する対応の情報開示も求められています。最後に、危機管理への対応については、社内の経験則だけに頼るのではなく、グローバルな流れやアカデミズムによる知見を踏まえ、さまざまな事象を十分に考慮した危機管理体制が構築されているかチェックし、検討結果を開示することが有用であるとされています。
経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)について
経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)については、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の項目に基づくコンセプトを「MD&A」で根拠のある数値として開示することが理解の助けになるとされています。経営成績、キャッシュ・フロー等の分析においては、中期経営計画や設定されたKPI 、財務指標の目標と実績の比較はもちろんのこと、各数値が企業価値の向上にどのように寄与しているのかを外部に開示することが重要であるとされています。 重要な会計上の見積りについては、現在の数値に関する見積りから変動した際の財務影響にどう対応するのか、定量的に開示することが推進されています。さらに、状況の変化に応じてどのような減損損失が発生するのか、可能性を開示しておくことが信頼獲得につながるとされています。
コメント
今回の好事例集の更新により、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の開示例が19社、「事業等のリスク」の開示例が16社、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」の開示例が19社、新たに事例として追加されています。また、今回の好事例集は随時項目が追加される予定であり、今後は「コーポレート・ガバナンスの状況等」の項目について何らかの公表がおこなわれる予定です。今後もますます情報開示の参照資料として役立てられるでしょう。
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