あれ!!中身がない… 信用取引と活発化するMBO
2011/02/18 商事法務, 戦略法務, 会社法, その他
記事
2011年2月15日、幻冬舎の臨時株主総会で、MBOに必要な定款変更の議決が、出席議決権3分の2を越す賛成票で可決した。対抗買収により、3分の1超の株式を取得していた投資ファンド(イザベル・リミテッド)は、決議に反対の意向を示していたが、仲介業者の立花証券が総会を欠席したため、可決した。決議内容は、株式公開買い付け(TOB)に応じなかった株主から、強制的に株式を買い取れるようにするものであった。イザベルは、立花証券との信用取引により株式を取得していたため、ほとんどの株式の名義人が立花証券であり、議決権を行使できなかった。
幻冬舎は、昨年10月に、MBOを成功させるためTOBを発表した。買い取り価格は、1株22万円。当時の株価より7割高い水準であったが、1株あたりの純資産額35万8000円に比べると低い価格であった。イザベル側はそこに目を付けて買い占めたとみられ、1株37~38万円での買い取りを要求していた。その後、幻冬舎は、買い取り価格を1株24万8300円に引き上げたが、イザベルはTOBに応じなかった。
幻冬舎は、TOBに応じなかった株主から、強制的に株式を買い取るため、臨時株主総会を開催した。
総会までに、イザベルは3分の1超の株式を取得していた。しかし、立花証券との信用取引により取得しており、基準日である1月7日までに清算して現物株を取得していなかった。そのため、ほとんどの株が仲介業者である立花証券の名義であり、立花証券が35%の議決権を持っていた。イザベルは、空箱は受け取っていたが、中身を買い取る資金が用意できなかった形となった。その結果、立花証券の動向が注目されたが、立花証券は総会を欠席。58%の議決権を持つ経営者側の意向が通り、可決した。
幻冬舎株は、3月15日まで整理銘柄に指定され、3月16日に、上場廃止される。300株を有するイザベルは、強制買取価格に不満ならば、裁判所に価格決定の申し立てができる(会社法172条1項1号)。
コメント
MBOによる上場廃止の動きが活発化している。2005年から2010年までで64件あり、今年でも既に6件となる。上場廃止が活発化する背景には、景気悪化による業績・株価の低迷に対し株主が厳しくなったこと、上場維持のコスト負担というデメリットと経営の効率化・迅速化のメリットとを比べた経営判断があると考えられる。一方で、株式価値の増加を目指し上場したが、株式価値を高められず、上場廃止をして、安価での株式取得により株主が損失を被る場合もある。経営の失敗を株主に転嫁することを安易に許す結果にならないような規制も必要ではないか。また、信用取引による議決権の所在を明確にする必要性もあるだろう。議決権は、基準日における株主名簿の名義人にあると考えられるが、信用取引の際に、明確にし、説明しておくべきであろう。
参考
証券会社が投資家に信用を与えて行う株式などの取引。信用取引には、証券会社により、保証金などの条件があります。
・種類株式(全部取得条項付株式)発行の定款変更決議(会社法108条2項7号、466条、309条2項11号)
・全部取得条項付株式の全部取得の承認決議(会社法171条、309条2項3号)
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