試験相手はネットの住人!? 大学入試掲示板投稿騒動
2011/03/01 行政対応, 刑事法, IT
試験相手はネットの住人!? 大学入試掲示板投稿騒動
事件の概要
京都大学(京都市)など4大学で入試問題の一部が試験中にインターネット上の掲示板に投稿された問題で、警視庁は、今回の行為が入試業務を妨げた偽計業務妨害などにあたる疑いがあるとみて、捜査に乗り出す方針を固めた。
事件のポイント
①サイト書き込みが本罪に該当するのか?
まず、偽計業務妨害の「業務」に京大入試が該当するのかという問題点があるが、京都大学という国立大学法人職員(みなし公務員)の行う入試業務は、「非権力的公務」であり、偽計業務妨害罪における「業務」に該当(京都地裁昭和44年8月30日判決参照)するという判断が出ている。
また、今回の件で通常の入試処理以外の手続が発生しておりので、業務の「妨害」も認定できるという意見がある。
一方、今回の書き込みは合格したいがために行う現場でのカンニングの一種であるとした場合、カンニングで合格したかったというだけでは偽計業務妨害成立は難しいのではという意見も存在している。
刑法233条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
②京大の対応 「被害届」と「告訴」
本件に対し、京大は京都府警に「告訴」する予定があるようだ。じつは、当初は「被害届」とする予定だったが、刑事訴訟法上の手続きである「告訴」によって処罰を求めるとともに、警察に確実を捜査を促すのが狙い(広報担当)だそう。
「被害届」は単なる被害報告だが、「告訴」には訴追の意思があり、告訴を受け取った司法警察員は告訴に関する書類又は証拠物を検察官に送付しなければないし(刑事訴訟法242)、告訴した事件を公訴を提起し、または公訴を提起しないときはその旨が告訴人に通知(刑事訴訟法260条)され、告訴あった事件について公訴を提起しないときは告訴人の請求があれば告訴にその理由が通知される。(刑事訴訟法261条)
被害届より多い効果がある分、手続も複雑で警察も受理に慎重になる。それだけ京大がこの問題を重視しているという事だろう。
刑事訴訟法241条 告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれを送付しなければならない。
○2 検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない
刑事訴訟法242条 司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない
刑事訴訟法260条 検察官は、告訴、告発又は請求のあった事件について、公訴を提起し、又はこれを提起しない処分をしたときは、速やかにその旨を告訴人、告発人又は請求人に通知しなければならない。公訴を取り消し、又は事件を他の 検察庁の検察官に送致したときも、同様である。
③サイトの責任と対応は?
質問が投稿されたyahoo掲示板は、IPアドレスの情報提供をはじめ捜査への全面協力を申し出ている。一方で、サイトの運営や利用規定について「今回の事件を受けての特別な変更はない」(広報担当)としている。
なお、捜査に当たってプロバイダへの情報請求を行う場合は、プロバイダ責任制限法の発信者情報開示請求に基づいて行われる。
プロバイダ責任制限法第4条 ① 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
1侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
2当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
最後に
京都大学をはじめとする大学は、事後の対応はしたものの、抜本的な対策は打ち出せていない。IT機器の普及、高性能化に慣れた新世代の若者たちに、大学を構成する旧世代の人間が翻弄されている現状。
今後も同様の事件の発生が予想されうるだけに、未然の防止策の構築は急務である。今回の事件でもっとも不利益を受けているのは大学ではなく、一生懸命勉強してきた受験生である。その人たちが正当な評価を受けられるようにと思う。
【関連リンク】
刑事訴訟法 法令データ提供システム
関連コンテンツ
新着情報
- まとめ
- 11月1日施行、フリーランス新法をおさらい2024.11.11
- フリーランス・事業者間取引適正化等法、いわゆる「フリーランス新法」が11⽉1⽇に施⾏されました...
- 業務効率化
- Legaledge公式資料ダウンロード
- ニュース
- Googleに排除措置命令へ、公取委がGAFAへ初の措置2025.1.6
- NEW
- 世界で最も利用されているインターネット検索エンジンを提供する米グーグル。同社が、独占禁止法に違...
- 弁護士
- 大谷 拓己弁護士
- 弁護士法人 咲くやこの花法律事務所
- 〒550-0011
大阪府大阪市西区阿波座1丁目6−1 JMFビル西本町01 9階
- 解説動画
- 大東 泰雄弁護士
- 【無料】優越的地位の濫用・下請法の最新トピック一挙解説 ~コスト上昇下での価格交渉・インボイス制度対応の留意点~
- 終了
- 視聴時間1時間
- 解説動画
- 加藤 賢弁護士
- 【無料】上場企業・IPO準備企業の会社法務部門・総務部門・経理部門の担当者が知っておきたい金融商品取引法の開示規制の基礎
- 終了
- 視聴時間1時間
- 弁護士
- 片山 優弁護士
- オリンピア法律事務所
- 〒460-0002
愛知県名古屋市中区丸の内一丁目17番19号 キリックス丸の内ビル5階
- 業務効率化
- LAWGUE公式資料ダウンロード
- セミナー
- 石黒 浩 氏(大阪大学 基礎工学研究科 システム創成専攻 教授 (栄誉教授))
- 安野 たかひろ 氏(AIエンジニア・起業家・SF作家)
- 稲葉 譲 氏(稲葉総合法律事務所 代表パートナー)
- 藤原 総一郎 氏(長島・大野・常松法律事務所 マネージング・パートナー)
- 上野 元 氏(西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 パートナー)
- 三浦 亮太 氏(三浦法律事務所 法人パートナー)
- 板谷 隆平 弁護士(MNTSQ株式会社 代表取締役/ 長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
- 山口 憲和 氏(三菱電機株式会社 上席執行役員 法務・リスクマネジメント統括部長)
- 塚本 洋樹 氏(株式会社クボタ 法務部長)
- 【12/6まで配信中】MNTSQ Meeting 2024 新時代の法務力 ~社会変化とこれからの事業貢献とは~
- 終了
- 2024/12/06
- 23:59~23:59