王将社長射殺事件で不適切取引を指摘/反社チェックについて
2022/11/01 契約法務, コンプライアンス, 危機管理, 刑事法
はじめに
「餃子の王将」を展開する王将フードサービス(京都市)の社長であった大東隆行氏(当時72歳)が2013年12月に射殺された事件をめぐり、警察が同社と取引があったとされる企業グループの経営者を参考人として聴取していたことがわかりました。同社は反社会的勢力との取引を否定しております。今回は反社チェックについて見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、先月28日、京都府警は9年前の王将フードサービス社長殺害の容疑で特定危険指定暴力団・工藤会系の組幹部、田中幸雄容疑者(56)を殺人などの疑いで逮捕しました。現場付近で見つかったタバコの吸い殻に付着していたDNAの型が一致していたとされます。同社では2016年3月に発表された第三者委員会の調査報告で、1995年~2005年頃、福岡県を拠点とする企業グループとの間で経済合理性の明らかでない貸付や不動産取引など繰り返していた点が指摘され、約200億円が流出していたとのことです。京都府警と福岡県警の合同捜査本部は不適切取引の相手とされた企業グループの経営者を任意で事情聴取していたことが判明しました。
反社会的勢力とリスク
反社会的勢力(反社)とは、暴力、威力、詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人や暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標榜ゴロ、政治活動標榜ゴロ、特殊知能暴力集団などを言うとされております。半グレ集団や詐欺集団も含まれます。このようないわゆる反社と関係がある場合、または関係が発覚した場合、企業にとっては様々なリスクが発生することとなります。まず反社組織から脅迫や威力を伴う不当な要求を長期間にわたって受ける可能性や、各都道府県暴排条例等によって罰則や行政処分を受けるといったことも考えられます。また反社との関係が取り沙汰されることにより企業イメージの毀損や信用失墜を招き、売上の低下、金融機関による融資の停止といった事態も想定されます。またこのような反社組織と一度関係を持ってしまうと、関係を断ち切ることは容易ではありません。事前に調査し関係を持たないだけでなく、企業として断固関係を拒絶する態度を示す必要があります。
反社チェック
企業が取引を始めるのに先立ち、相手が反社ではないかを調査することを反社チェックと言います。一般に反社組織は一見なんら問題のない企業や組織に見えます。しかし実態は暴力団等が経営していたり、フロント企業である場合が多いと言えます。そこで事前の調査が不可欠と言えます。反社チェックの方法は大きく3つに分けられます。1つ目は自社での調査です。これはインターネットでの検索や各種データベースでの照合、業界団体への照会などを使って調査するという最も初歩的で基本的な調査法と言えます。2つ目は行政機関への照会です。警視庁組織犯罪対策第三課や公益財団法人暴力団追放運動推進都民センターなどで照会することが可能です。3つ目は興信所など民間の調査機関に調査を依頼することです。反社チェックを専門に行う専門機関もあり、自社では困難な手法での調査も可能と言えます。
反社条項
企業が取引を行う際に契約書に、反社会的勢力でないこと、暴力や威迫などを用いた不当な要求を行わないことを互いに示す条項を盛り込むことがあります。これを反社条項(反社会的勢力排除条項)と言います。警察庁が公表しているモデル条項例では、(1)自らが反社会的勢力ではないこと、(2)自らの役員が反社会的勢力ではないこと、(3)反社会的勢力に自己の名義を利用させこの契約を締結するものではないこと、(4)この契約に関して相手方に対する威迫的な言動または暴力を用いる行為、偽計・威力を用いて業務を妨害、信用を毀損する行為をしないことを相互に確約し、これに違反があった場合は無催告で契約を解除すること、解除された者はその相手方に対し違約金○○円を支払うこと、解除された側は解除により生じる損害について一切の請求を行わないことなどが盛り込まれております。売買や賃貸借などそれぞれの契約に合わせた雛形が各省庁で示されており参考にできます。
コメント
本件で王将フードサービスは1995年頃から2005年頃にかけて福岡県を拠点とする企業グループとの間で経済合理性が明らかでない貸付や不動産取引を繰り返し、それにより約200億円が流出しそのうち約170億円が未回収とされます。この企業グループが反社会的組織であった場合、これらの不適切取引に関するトラブルから当時の社長である大東氏が殺害された可能性も考えられます。今後の捜査が注目されます。以上のように近年、企業は反社への対応が求められます。暴排条例では反社組織との関係があれば罰則や行政処分が規定され、世間的にも顧客や取引先、金融機関からの信用を失うなど巨額の損失を被ることとなります。自社での反社体制やコンプライアンス体制は整備されているか、契約書に反社条項は盛り込まれているか、反社チェックは行えているかを今一度見直すことが重要と言えるでしょう。
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