新たな不正発覚で全車種出荷停止。大規模リコールの可能性も ー ダイハツ
2023/12/22 コンプライアンス, 行政対応, 自動車
はじめに
今年4月および5月に車の衝突試験における不正が発覚していたダイハツ工業。第三者委員会による調査の結果、新たに174件の不正が発覚したことがわかりました。
ダイハツ工業側は国内外の全ての車種で出荷の停止を決定。さらに、12月21日には国土交通省がダイハツ工業本社に立入検査に入っています。
調査で、さらなる不正が発覚
ダイハツ工業は、今年4月から5月にかけて、車の衝突試験(ドアトリム・ポール側面衝突試験、計6車種)における不正が発覚したことを受け、第三者委員会を設置し、不正の全容解明のための調査を依頼していました。
第三者委員会は12月20日、ダイハツ工業に調査結果を提出。もともと発覚していた不正に加え、新たに25の試験項目において174個の不正行為があったことが判明しました。不正行為が確認された車種は、すでに生産を終了したものも含め、64車種・3エンジンにのぼるとされています。
調査結果を受け、ダイハツ工業は国内外で生産中の全てのダイハツ開発車種の出荷停止を決定しました。
出荷再開には、国土交通省の監査や許可が必要となることから、出荷再開の時期については見通しが立っていません。また、万が一、「型式指定(量産時に必要となる国土交通大臣による認証)」が取り消された場合、販売停止が長期化するおそれもあるといわれています。
ダイハツ工業は、販売済みの車両の安全性について、「社内の検証で問題ない旨を確認した」としていますが、国の定める基準を満たしていないと判断された場合、大規模リコールとなるおそれがあります。
国土交通省は、道路運送車両法違反のおそれがあるとして、12月21日、大阪府にあるダイハツ工業の本社へ立ち入り検査を開始しました。
不正の事実確認や車両の安全性確認も行われるということで、場合によっては行政処分が下される可能性もあるということです。
不正行為の実態
第三者委員会の調査報告書によると、一連の不正は社内での認証試験で行われており、衝突試験のほかに、排ガスや燃費の試験などでも行われていたといいます。一番古い不正は1989年から確認されており、短期開発が推し進められた2014年以降に不正行為の件数が増加したことも明らかとなりました。
【不正行為の事例】
(1)側面衝突試験における認証試作車への手加工
認証試験に確実に合格するため、希望どおりの試験結果が出るよう、量産車とは異なる手加工を行った。
(2)ポール側面衝突試験におけるデータ不正
認証のために、本来、運転席側・助手席側両方の試験を実施する必要があるところ、運転席側の試験を行わず、助手席側の試験データを運転席側の試験データとして提出した。
(3)エアバッグのタイマー着火
側面衝突試験では、衝撃のセンサー検知によるエアバッグの自力着火が求められるにも関わらず、エアバッグをタイマー着火させる方法で試験を実施した。
(4)ヘッドレスト後方衝撃試験におけるデータ不正
本来、運転席側の試験データを試験成績書に記載する必要があるところ、運転席側の試験を行わず、助手席側の試験データを運転席側の試験データとして記載し、認証申請を行った。
(5)タイヤ空気圧の虚偽記載
速度計試験において、20キロパスカルを加えたタイヤの空気圧での試験実施が求められるところ、正しい空気圧での試験実施を行わず、それにも関わらず、20キロパスカルを加えた虚偽のタイヤ空気圧を試験成績書に記載し、認証申請を行った。
なお、不正に関与していたのは、現場の担当者や主に係長級までの社員で、ごく一部の例外を除き、部室長級以上の役職者が現場レベルの不正行為を指示し、あるいは黙認したという事実は認められなかったとされています。そのことから、現時点で、ダイハツ工業が組織的に不正行為を実行・継続したことを示唆する事実は認められないとしています。
不正蔓延の原因
調査報告書では、不正行為がこれほどまでに蔓延していた原因についても分析されています。
(1)過度にタイトな開発スケジュール
ダイハツ工業では、「短期開発」を売り文句とする会社のカラーを守るため、タイトで硬直的な開発スケジュールの中で車両が開発されていたといいます。開発の各工程がすべて問題なく進んで、はじめて実現できるスケジュールとなっており、問題が生じた場合に対応を行う余裕がなかったと指摘されています。
その結果、途中工程で問題が生じた際には、最後の工程である認証試験にしわ寄せがくる実状があったということです。
(2)認証試験実務における管理職の問題解決能力の欠如
管理職が認証試験実務等に精通しておらず、問題解決が期待できない状況から、現場サイドから管理職に報告・相談が行われず、現場の担当者レベルで問題を抱え込まざるをえない状況が生まれていたとされています。
(3)ブラックボックス化した職場環境
認証試験の領域では、チェック体制が未整備で、さらに専門性の高さから属人化・ブラックボックス化しており、不正が発覚しにくい環境があったといいます。
(4)現場の担当者の法規の理解不足
人員削減による法規認証に精通した人材の不足、教育研修の不十分などが原因で、現場の担当者の法規の理解が不十分であったと指摘されています。その結果、過去から踏襲されたグレーな対応を、法規上も問題ないと自己判断して不正行為に及んでいたということです。
(5)現場の担当者のコンプライアンス意識の希薄化
開発日程の極端なタイトさ、認証試験は合格して当たり前という社内の空気、スケジュール遵守への強烈なプレッシャーなどが相まって、現場の担当者においてコンプライアンス意識が希薄化していったとされています。そこから、認証試験軽視の風潮が生まれ、「認証試験は、不正確な情報を記載してでも、とにかく結果的に合格させればいい」という考えが蔓延していったといわれています。
コメント
会社の業績を大きく揺さぶる事態に発展した一連の不正問題。不正行為自体は現場の担当者によって行われたものですが、報告書では経営幹部に向けた厳しい言葉が並んでいます。
・経営幹部として、不正行為の発生を想定していなかったこと
・不正予防や不正の早期発見の対策を全く取らずに短期開発ばかり促していたこと
・それにより現場の担当者が強いプレッシャーを感じ、不正行為に手を染めたこと
などを指摘し、リスク感度の鈍さを強く非難する内容となっています。
今回のダイハツ工業の例に限らず、ノルマ達成・目標達成を過度に重視する組織では、「創意工夫し、あらゆる手を尽くして目標を達成する」、いわゆる“目標にコミットする姿勢”が賞賛される風潮が見られます。しかし、ほとんどの企業不祥事で、この目標コミットの姿勢の強調こそが、コンプライアンス違反の元凶となっています。
“目標へのコミット”と“コンプライアンス”のバランスをどのように取っていくのか。経営層からの明確な発信が求められます。
【関連リンク】
ダイハツ工業株式会社(調査報告書 -概要版)
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