青森市内の2社を書類送検、労災隠しとは
2025/01/09   労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 建設

はじめに

 青森労働基準監督署は7日、従業員が労災で休業したにもかかわらず報告していなかったとして、青森市内の会社2社の代表を書類送検しました。立入検査で虚偽の説明もしていた疑いがあるとのことです。今回は労働安全衛生法の「労災かくし」について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、書類送検されたのは青森市で林業を営む「川越林業」と、建設業を営む「田代工業」とされます。川越林業の従業員は2024年3月、青森市内の工事現場で木の枝の積み込み作業をしていたとき、トラックの荷台から転落し腰の骨を折って休業したとのことです。また田代工業の従業員は2023年10月、青森市内の工事現場でチェンソーで伐った木が頭に当たり、首の骨を折って休業したとされます。いずれの件でも労災が発生した旨、労基署への報告がなされておらず、川越林業では立入検査があった際に労災は無いとの虚偽の説明をした疑いがもたれております。青森労基署は両社の代表を労働安全衛生法違反の疑いで青森地検に書類送検しました。

 

労災隠しとは

 業務中や勤務中に労働者が負傷や疾病に罹患することを労働災害(労災)といいます。労災が発生した場合は労働者災害補償保険法によって労災保険給付がなされることとなります。一方で、自社で使用している労働者に労災が発生した場合には一定の書式に則って労基署に報告することが義務付けられます。この報告をしないしなかったり、または虚偽の報告をすることが「労災隠し」です。労災隠しを行う動機は様々ですが、基本的には自社で労災が発生したことを隠蔽したい場合が多いと言えます。この労災かくしは労働安全衛生法に罰則も置かれている犯罪に該当します。労働安全衛生法120条では、報告義務が発生している場合に報告せず、または虚偽の報告をし、もしくは出頭しなかった場合には50万円以下の罰金に処するとしております。

 

労基署への報告が必要な場合

 それではどのような場合に労基署に報告が必要なのでしょうか。労働安全衛生規則97条によりますと、(1)労働災害における負傷、窒息または急性中毒で死亡、または休業した場合、(2)就業中の負傷、窒息、急性中毒で死亡、または休業した場合、(3)事業場内または附属建物内における負傷、窒息、急性中毒で死亡、または休業した場合に「労働者死傷病報告」を労基署に提出する必要があるとされます。そしてここには規定されておりませんが、心疾患や脳疾患、精神疾患といった場合でも、運用上、提出が必要と言われております。しかし通勤災害では必要ありません。また報告の提出時期や様式は休業の日数によって異なっており、それぞれ様式が異なっており厚労省のホームページからダウンロードすることが可能です。

 

電子申請の義務化

 労働者死傷病報告については2025年1月1日から電子申請によることが義務化されております。また記載様式もいくつか変更が加えられております。災害発生状況をより的確に把握することが目的とされております。電子申請は「e-Gov」のシステム改修により、連携することでスマホからでも申請が可能です。記載内容の主な改正点は、(1)事業の種類、(2)被災者の職種、(3)傷病名及び傷病部位、(4)災害発生状況及び原因、(5)国籍・地域及び在留資格となっております。これらはそれぞれ、製造業、食料品製造業、加工処理従業者、傷病名:切断、部位:腕などとそれぞれの項目ごとにコードが用意されており、それを選択することとなります。また災害発生業況及び原因欄では、それぞれどのような場所で、どのような作業をしているときに、どのような物又は勧業になどといった欄に分割されており、それぞれに記入していくこととなります。

 

コメント

 本件で青森市内の2社は従業員がトラックの荷台から転落して骨折、または伐採した木が頭にあたり首の骨を骨折し休業したにもかかわらず所轄の労基署に報告をしていなかったとされます。またそのうちの1社は労基署による立入検査で虚偽の説明をしていた疑いもあるとのことです。就業中または事業場内等での負傷は労災に該当するか否かにかかわらず、休業が発生した場合は労働者死傷病報告が必要となります。また今年1月1日から電子申請による報告が義務付けられます。これは令和7年1月1日以降に発生した場合に適用され、令和6年12月31日までの分は電子申請による報告はできません。令和7年1月1日以降の分については従来の様式23号、24号による報告もできなくなるので注意が必要です。どのような場合にどのような手続が必要かを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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