ツルハHDが酒気帯び運転で執行役員を解任、取締役の選・解任について
2024/11/18 商事法務, コンプライアンス, 会社法, 医療・医薬品
はじめに
ドラッグストア大手「ツルハホールディングス」(札幌市)が14日、同社執行役員が酒気帯び運転で検挙されたとして解任していたことがわかりました。コンプライアンス上きわめて不適切とのことです。今回は役員の選・解任と欠格事由について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、ツルハホールディングスの執行役員で、同社連結子会社の「レデイ薬局」(愛媛県松山市)の代表取締役である男性が6日深夜に松山市内の国道で、酒気帯び運転をしていたところ松山南警察署に検挙されたとされます。同社は臨時株主総会において、同男性を解任したとのことです。同社は、飲酒運転の厳罰化が進む中、コンプライアンス体制の確立を図り経営の透明化を進める当社グループの役員としてきわめて不適切であると判断したとしております。なおレデイ薬局に関しては代表取締役会長が代表取締役社長も兼務するとしております。
取締役の選任・解任
取締役だけでなく、監査役や会計参与などの役員の選任は株主総会での普通決議によって行います(会社法329条1項、309条1項)。この普通決議は議決権を行使できる株主の議決権の過半数が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の過半数の賛成で成立します(309条1項)。通常、普通決議は定款で定足数を排除することが可能ですが、役員の選任・解任に関しては定足数を3分の1未満にすることができません(341条)。そして解任も同様に株主総会の普通決議によることとなりますが、累積投票で選任された取締役を解任する場合は特別決議による必要があります(342条6項、309条2項7号)。また監査役を解任する場合も特別決議が必要です。特別決議は、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で可決することとなります。
上でも触れたように取締役は株主総会決議によって選任されます。しかし株主総会で選任されれば無制限に取締役になれるわけではなく、一定の欠格事由が規定されております(331条、326条1項)。まず法人は取締役になることができません。取締役はその人の経営手腕を買われて就任するものであることから自然人に限られております。会社設立時の発起人や持分会社の社員と異なる点と言えます。次に会社法関連の法律違反により刑に処せられた者が挙げられます。この会社法関連の法律とは、会社法だけでなく、金商法や破産法、民事再生法など経済関係の法律となります。これらの刑が確定し執行が終わってから2年が経過するまで取締役になることができません。なお執行猶予中も欠格事由に該当しますが、執行猶予期間が経過したら2年を待つ必要はありません。そして最後にそれ以外の法律違反によって禁錮以上の刑に処せられた場合があります。こちらの場合は刑の執行が終われば取締役になることが可能で、執行猶予中も同様に欠格事由には該当しません。
未成年者や成年被後見人、被保佐人といった制限行為能力者も取締役の欠格事由には挙げられておりません。またかつては欠格事由とされていた破産手続き開始決定を受けた者も現在では欠格事由とはされておりません。しかし制限行為能力者が就任する場合には一定の制約が存在します。まず未成年者が就任する場合は親権者の同意が必要となります。また取締役会非設置会社の場合、原則として取締役全員が代表取締役でもあることから印鑑証明書が必要となります。印鑑証明書は15歳以上でなければ取得できないことから15歳以上という制約はあります。成年被後見人の場合は成年後見人が本人の同意を得て代理で就任承諾をすることとなります。被保佐人の場合は、保佐人に代理権付与の審判がなされている場合は成年被後見人と同様となりますが、代理権が無い場合は保佐人の同意を得て本人が就任承諾をすることとなります。なお後見開始の審判と破産手続き開始については民法上の委任の終了事由であることから、一旦退任することとなります(民法653条)。
本件でツルハホールディングスの執行役員の男性は、松山市内で酒気帯び運転の疑いで松山南署に検挙されたとされております。酒気帯び運転は道路交通法で3年以下の懲役または50万円以下の罰金となっております。その後の警察当局の処分については不明ですが、実刑の場合は欠格事由に該当するものと言えます。そして該当しない場合も株主総会決議があれば解任することができます。本件では後者の例になったものと考えられます。以上のように取締役等の会社役員は株主からの信頼のもと、会社に対し重い責任を負っており、一定の刑事罰を受けた場合は自動的に取締役の地位が剥奪されます。役員の選任・解任の手続きだけでなく、どのような場合に欠格事由となるのかも確認し、周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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