美肌石鹸による重大なアレルギー被害に対し、集団訴訟の動き。
2011/08/16 消費者取引関連法務, 民法・商法, その他
美肌石鹸による重大なアレルギー被害に対し、集団訴訟の動き。
美肌効果を売りに通信販売で大ヒット商品となった「茶のしずく石鹸」をめぐり、アレルギー被害が拡大している。同商品の販売元である「悠香」は今年5月に自主回収を始めているが、その後に全国の消費生活センターに寄せられた被害相談件数は400件を超えており、中には重症例も相当数見られる。
これを受け、大阪などでは、「悠香」側の注意喚起が不十分であったことが被害を拡大させたとして、集団訴訟を視野に、被害対策弁護団が発足した。
茶のしずく石鹸
茶葉から抽出したカテキン成分などを石鹸に配合し、シミや美白への効果をうたって、売り出された。同商品は1個あたり60グラムの重さだが、その価格は1980円と高価なものである。
しかし、女優の真矢みきさんを起用したCMの効果もあってか、累計約5千万個を販売する大ヒット商品となった。
症状と原因物質
■1.茶のしずく石鹸によるアレルギー症状
顔や目の回り等の皮膚のかぶれ、全身のかゆみや呼吸困難などが挙げられる。兵庫県赤穂市の女性が急性アレルギー反応(アナフィラキシー)を発症して意識不明の重体になるなど、重篤な症状となるケースも少なくないようだ。
■2.推測される原因物質
厚生労働省の発表によると、原因物質としては、茶のしずく石鹸に含まれていた保湿成分「グルパール19S」が考えられるとのこと。
同物質は小麦に酸を加えたものだが、消費者が茶のしずく石鹸を利用した際に、皮膚などから体内にグルパール19Sを吸収、その際に小麦アレルギーを誘発したようだ。茶のしずく石鹸の利用者の一部は、その後、パンやうどん、パスタなどの小麦を用いた食品を食べた際に、アレルギー症状が出るようになったとみられている。
いったん小麦アレルギーになってしまうと、茶のしずく石鹸の使用をやめても、小麦製品を食べられなくなる被害が続くという。
なお、悠香は、アレルギー被害の多発を受け、昨年12月以降、一切の小麦成分を茶のしずく石鹸から排除している。
雑感
株式会社悠香は、2003年9月に机一つの小さな貸事務所の一角からスタートした企業である。創業時の取扱商品も「茶のしずく石鹸」のみ。そこから、茶のしずく石鹸を武器に従業員700人弱の企業へと成長した。
自社の地位を一気に押し上げた超主力製品に不具合のおそれが判明した時に、企業のトップはどのような判断をすればよいのだろうか。
■1.自主回収を行うリスク
自主回収を行うには、(1)自社商品に欠陥があることのアナウンス、(2)代替となる商品(グルパール成分を除いた製品)の開発・製造、(3)返金を求める消費者に向けてのキャッシュの確保等が必要となる。
これらは、今まで築いてきた利益の吐き出しを意味するのであり、企業の歩みという視点では後退に他ならない。
また、自社の超主力製品に対する信頼も大きく失墜することから、今後の収益の低下も容易に予想される。
従業員の生活も考えなくてはならない企業のトップが、自主回収という選択に及び腰になるのも無理のないことであろう。
■2.欠陥のおそれのある製品を放置するリスク
とは言え、欠陥のおそれのある製品を放置した場合、最悪の場合、人命の損失という最大級の損害につながる可能性がある。死者が出ない場合でも、企業イメージの大幅な低下は否めず、放置した期間が長くなり被害者が増加すればするほど、損害賠償その他にかかる額が増大する。
もっとも、欠陥の“おそれ”があるに過ぎない段階では、上述のようなリスクがあるのか、現実には欠陥などなくリスクはゼロなのかは明確でない。
■3.総括
企業が人に支えられる存在である以上、欠陥製品を流通させる等のミスを犯すのはある意味仕方のないことである。
欠陥を生まない企業が評価されるのは当然だが、インターネットの流通により情報が容易に集積・拡散する現代社会では、欠陥を生まない企業という自社のイメージを守るために消費者の生命・身体にリスクを負わせる企業は、大きく評価を下げることになるだろう。
コンプライアンスという考え方が浸透して来た現代においては、自社以外の人間にリスクを負わせて自社の成長を図るということは、実質的に不可能である。消費者はしっかりと見ているのである。
今後は、(1)欠陥をいち早く発見する体制作り、(2)欠陥が発見された時に消費者の利益を第一に迅速に対応する体制作り、これらが整備された企業こそが評価される時代が来そうである。
常時、自社製品に欠陥がないかをチェックさせ、少しでも、消費者にリスクが生じるおそれがあったら、目先の自社利益を顧みず即座に対応する。企業のトップは、末永く自社を存続させるために、このような姿勢をアピールしなければならない。
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