廃棄物のリサイクルを目的とする処理の実務的な留意点
2020/07/13 コンプライアンス, 行政対応
今回は牛島総合法律事務所の猿倉健司弁護士に廃棄物処理・処理委託のポイントについての記事を執筆していただきました。
はじめに
事業を行う上で発生した不要な物について、単に廃棄物として処理または処理を委託するだけではなく、新たな製品としてリサイクルするための原料として処理または処理を委託することはよくあります。しかしながら、近時、産業廃棄物の不法投棄や土壌汚染の不適切な処理がなされるケース、その他数多くの不祥事が報道されています。
以下では、事業上発生した廃棄物をリサイクル目的で処理または処理委託する場合の実務的な留意点について、いわゆる「逆有償」問題を中心に、簡単に解説します。
詳細については、牛島総合法律事務所ニューズレター・猿倉健司『廃棄物のリサイクルを目的とする処理(廃棄物処理)の実務的な留意点』をご参照ください。
1.廃棄物の処理に関する規制
2.リサイクルを目的とする廃棄物処理についての規制
3.廃棄物処理法が適用される「不用物」かどうかの判断基準
4.不適切な廃棄物処理・処理委託を行った場合の法的リスク
5.リサイクルを目的とする廃棄物処理の実務上の留意点
1.廃棄物の処理に関する規制
(1)廃棄物処理法
事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならないとされ(廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、「法」または「廃棄物処理法」といいます。)3条)、廃棄物の不法投棄は禁じられています(法16条)。
廃棄物処理法に違反して廃棄物を不法投棄した者は、5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金か、これらの両方が科されます(法25条1項14号)。企業の場合には、3億円以下の罰金が科されます(法32条1項1号)。
自らが産業廃棄物の運搬または処分を行う場合には、政令で定める産業廃棄物の収集、運搬および処分に関する基準に従う必要があります(法12条1項)。他方、産業廃棄物の運搬または処分を他人に委託する場合には、政令で定める基準に従い、産業廃棄物収集運搬業者、産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者にそれぞれ委託する必要があります(法12条5項、6項)。
(2)条例による規制
法律上の規制のほか、各事業所に適用される自治体の条例による規制がかかる可能性がありますので、留意すべきです。
2.リサイクルを目的とする廃棄物処理についての規制
廃棄物処理法においては、産業廃棄物の「再生」も最終処分(埋立処分、海洋投入処分又は再生をいう)の一態様として挙げられていますので、再生されるまでの間は上記と同様の規制を受けることになります。
この点については、厚生省の平成17年・平成25年通知1において、「再生後に自ら利用又は有償譲渡が予定される物であっても、再生前においてそれ自体は自ら利用又は有償譲渡がされない物であることから、当該物の再生は廃棄物の処理であり、法の適用がある」と説明されています。
3.廃棄物処理法が適用される「不用物」かどうかの判断基準
事業者がリサイクルを目的として処理または処理委託をする対象物が、廃棄物処理法の対象となる「不要物」なのか、そうではないのかは必ずしも明らかではありません。
廃棄物性についての行政解釈(厚生省の通知)
昭和52年の厚生省通知2において、「廃棄物とは、占有者が自ら利用し、又は他人に有償で売却することができないために不要になった物をいい、これらに該当するか否かは、占有者の意思、その性状等を総合的に勘案すべきもの」であることが明確にされました。
厚生省の平成17年・平成25年通知(前述)においては、総合判断の内容について規定されています(以下、抜粋等しています)。
以下は各種判断要素の一般的な基準を示したものであり、物の種類、事案の形態等によってこれらの基準が必ずしもそのまま適用できない場合は、適用可能な基準のみを抽出して用いたり、当該物の種類、事案の形態等に即した他の判断要素をも勘案するなどして、適切に判断されたい
ア 物の性状
イ 排出の状況
ウ 通常の取扱い形態
エ 取引価値の有無
オ 占有者の意思
実務上特に問題となるのは、上記ウやエの点です。
廃棄物(不要物)といえるのかどうかの判断基準に関し、対象物(産業廃棄物であるかどうかが問題となっている物)を第三者に有償で売却していても、当該第三者の支払う輸送料や引取料の方が高額な場合は、廃棄物(不要物)とみるとする「逆有償」という考え方があります。
この考え方は、たとえば、リサイクル製品・再生製品(例:再生砂・改良土)を10万円で販売していたとしても、その輸送料や引取料が20万円だった場合、当該製品の販売者は購入者に対してその差額の10万円で当該製品を引き取ってもらっている(不要なものとして処理してもらっている)のと変わりないという発想に基づくものです。
逆有償の考え方は、行政実務においても採用されています3。
判例の考え方
裁判例において、廃棄物(不要物)といえるのかどうかについて判断がなされたリーディングケースにおいては、「『不要物』とは、自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい、これに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取り扱い形態、取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当」であると判断しています(最高裁第2小法廷決定平成11年3月10日)。
前記の行政解釈はこの最高裁判所の判断に従っているようにも見えますが、実際には必ずしも同一でないと考えられます。実際にも、裁判所は、行政庁の解釈を尊重するとは考えられるものの、あくまで裁判所の解釈に従って判断するため、事案によっては行政庁と異なる判断をする可能性もあります。
たとえば、下級審の裁判例では、行政解釈とは異なる判断があり得る(逆有償であっても直ちに廃棄物(不要物)と判断されるわけではない)ことを示しています(水戸地裁判決平成16年1月26日、名古屋高裁判決平成17年3月16日)。
4.不適切な廃棄物処理・処理委託を行った場合の法的リスク
法令に従った適切な処理を行わなかった場合には、行政処分を受けるほか刑事責任を問われる可能性があります。
その他、取締役その他の役員は、これによって当該企業が被った損害について賠償する責任を負うこともあります。実際にも、廃棄物のリサイクル製品(埋戻し材)について成分を偽装して認定を受けたうえで販売・不法投棄したケースで、株主代表訴訟が提起された例があります。第1審は、元役員ら3名の責任を認め、そのうち1名に対しては請求額のほぼ全額である485億8400万円の支払いを命じました(大阪地裁平成24年6月29日判決)。
5.リサイクルを目的とする廃棄物処理の実務上の留意点
産業廃棄物にあたるかどうかは、都道府県や政令市の個別判断に委ねられている面があり、必ずしも明確ではありません。また近時、環境法令をはじめとして関係法令やガイドライン・業界指針がめまぐるしく改定されていますが、適切なアップデートがなされないと、少し前までは問題がなかった(=適法であった)にもかかわらず、法令違反とされてしまうことがあります。
実際にも、ある自治体や官庁から処理について問題ない旨の見解が提示されたにもかかわらず、他の自治体や官庁・捜査機関から当該見解に従った処理が違法であると指摘され、処分までなされるケースも見られることが特に注意が必要です(京都市内に本店を置く産廃処理会社が、土砂の混合物を汚泥とともに固化処理した再生製品を宅地造成地に使用していたところ、当該製品は産業廃棄物であるとして、同社社長が廃棄物処理法違反容疑で京都府警に逮捕された事案)。
そのため、リサイクルを目的とする廃棄物処理を行うにあたっては、環境有害物質や産業廃棄物の処理の規制の対象となるのか、どのような規制がかかるのか等、法的な判断が難しいものについては、最新のガイドライン・通知や規制動向・裁判例も踏まえて慎重に検討のうえで、必要に応じて適切に弁護士その他の専門家の意見を踏まえて対応することが必要となります。
1平成25 年3月29 日環廃産発第1303299 号環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長通知
2 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部改正について」(昭和52 年3月26 日環計第37 号厚生省環境衛生局水道環境部計画課長通知)
3環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長「『規制改革・民間開放推進三か年計画』において平成16年度中に講ずることとされた措置(廃棄物処理法の適用関係)について」(平成17年3月25日環廃産発1303299)。
本校は、2020年6月時点までに入手した情報に基づいて執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことに留意してください。また、意見にわたる部分は、執筆担当者ら個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。
猿倉 健司弁護士
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