Q&Aで学ぶ契約書作成・審査の基礎 第8回 – 定型約款の実務2
2021/10/07 契約法務
今回も前回に引続き, 民法の「定型約款」規定を踏まえ, Webサイト・アプリ等を通じユーザに対し行われるサービス等に適用される利用規約作成上の実務的問題について解説します。今回は, サブスクリプション方式(一定期間ごとに料金発生)のオンラインサービスを念頭に利用規約の変更について解説します。
なお, ここで取り上げる利用規約については, 民法上の定型約款規定の「定型取引」要件および「定型約款」要件(民法548の2(1)柱書)(第6回Q2, Q3参照)は既に満たされているものと仮定します。
本稿において, (i)法令等の説明中の( )内の数字は条文または参考資料の関連ページ等の番号であり, (ii)法令等への言及中における[ ]内の内容は筆者による補足・追記です。
また, 本稿中「実務Q&A」とあるのは村松・松尾「定型約款の実務Q&A」(2018/11/19, 商事法務)(法案立案担当者の解説書)を意味します。
【目 次】 (各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプします) Q3: 利用規約に工夫をしていない場合に不利益変更を有効に行うには? |
Q1: 利用規約変更の具体的手続は?
A1: 以下に解説します。
【解 説】
民法第548条の2(定型約款の合意)に従い, 定型約款準備者(以下「事業者」)が定型約款(ここでは利用規約)を相手方(以下「ユーザ」)に対し一旦有効に適用した後に, その変更が必要になることがあります。この変更後の内容を有効に適用するには, 民法第548条の4(定型約款の変更)第2項に従い, 手続的には以下の要件を満たさなければなりません。
【定型約款の変更の手続的要件】
事業者が変更の効力発生時期到来までに(*1)以下の全ての事項を適切な方法によりユーザに周知(*2)すること。
①定型約款を変更する旨
②変更後の定型約款の内容
③変更の効力発生時期
(*1)周知の期限:具体的基準はありませんが, 「実務Q&A」(p 135)では, 実体的要件との関係で, 特に重大な不利益変更については半年・1年等の長期の猶予期間を置くことを例示しています。従って,
一つの目安としては以下のようになるのではないか思われます。
①明らかに全てのユーザに有利な変更(例:料金減額/値上げを伴わないサービス内容拡充):即日~1週間前まで。
②重大な不利益変更:半年~1年前まで。
③上記以外:1か月~数か月前まで。
(*2)周知方法:「実務Q&A」(p 137)では, インターネットを利用した周知(例:事業者ウェブサイト上での公表), 連絡可能なユーザへの電子メール・書面送付等を例示しています。従って,
一つの例としては以下のようになるのではないかと思われます。
①登録ユーザに対しては電子メール・書面送付等により通知, プラス,
②それ以外の(連絡不能な)ユーザ向けに事業者ウェブサイト上での周知。
【ユーザへの変更の予告通知例文】
以下に電子メールで通知する場合の考えられる例文を示します。
(電子メールタイトル)【重要】利用規約変更のお知らせ 平素より○○○○をご利用いただき, 誠にありがとうございます。 このたび, 「○○○○利用規約」の内容を一部変更することになりました。 以下に変更時期・内容等をご案内いたしますので, ご確認いただけますと幸いです。 ■変更後の利用規約の効力発生時期(変更日) ××××年××月××日(×)~ ■変更の概要 (省略) ■変更後の利用規約(全文)の内容(*) こちらからご覧いただけます。 今後とも××××をご愛顧賜りますよう, 何卒よろしくお願い申し上げます。 ──────────────────────────────────── 株式会社×××× https://... |
Q2: ユーザに不利な利用規約変更を有効に行うには?
A2: 最初から利用規約にその変更が有効になるよう工夫をしておくことが考えられます。
【解 説】
先ず, 民法第548条の4(定型約款の変更)上の実体的要件を再確認すると, 以下のようになっています。
【定型約款変更の実体的要件】次のいずれかの場合であること。
①定型約款の変更が, 相手方(ユーザ)の一般の利益に適合する場合。
②定型約款の変更が, (i)契約をした目的に反せず, かつ, (ii)変更の必要性, 変更後の定型約款の内容の相当性, この条[民法第548条の4]の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無・内容その他の変更に係る事情に照らして, 合理的なもの[変更]である場合。
・従って, 如何に利用規約(定型約款)の変更について手続要件を満たしたとしても, ユーザに不利な変更を行う場合にはそもそも上記の実体的要件を満たさないと判断され変更を有効に行えない場合があり得ることになります。勿論, 全ユーザから変更について個別に同意を得れば問題はありませんが, それは困難でしょうし, また, 同意を得ようとする過程で多くのユーザを失うリスクもあります。
・上記の下線部分の通り, 変更が「合理的」(従って有効)になる事情の例として, 定型約款の変更に関する規定が最初からあれば, それは, 定型約款の変更が有効になる考慮要素の一つとなります。また, 「実務Q&A」(p 135)では, その事情の例として, ユーザの不利益低減措置, 具体的には, 変更を望まないユーザに対する契約解除権付与/特に重大な不利益変更については半年・1年等の長期の猶予期間を置くこと等が挙げられています。
・そこでこれらをヒントに, 利用規約中に, 最初から, 以下の例文のような規定を置いておくことが考えられます。[1]
(a) 契約更新時には更新時に有効な利用料金が適用される旨規定しておく。
(例文)「お客様が本サービスの契約期間を更新された場合に適用される利用料金は, その更新時点で有効な当社公表料金表によります。お客様は第○条に従い本契約を更新しないことができます。」 |
・もっとも, これは定型約款の「変更」ではなく, 最初から定型約款中でそのことを合意していたという方が適切かもしれません。
(b) 契約期間中でも料金変更ができる旨規定しておく。
(例文)「当社は, 契約期間中でも, 必要と判断した場合, 利用料金を変更できるものとします。この場合, 当社は, 事前にその変更をする旨, 変更後の利用料金および変更の適用時期を, 当社ウェブサイトへの掲載その他当社が適切と判断する方法で告知するものとします。また, 当社は, その変更が料金増額の場合には, 最低○日前までにこの告知を行います。」 |
・上記の「契約期間中でも, 」は, 確定した契約期間を設けていないサービス(期間の定めのない契約)では, 上記の「契約期間中でも」の部分は「いつでも」と変更する必要があります(以降の例文でも同様)。
・民法第548条の4第2項で, 事前告知(同項上は「周知」)は常に必要とされている(同条第2項)ものの, 予告期間については, 料金減額の場合には即日または短期間でも適用可能と思われるので, 原則として単に「事前に...告知」としました。
・ここで, 「告知」とし同項上の「周知」を用いていない理由は, 「周知」と書くと何をもって「周知」と言うのかについてユーザとの間で議論になる可能性がありそれを避けるためです。しかし民法上はあくまでも「周知」であり, 「当社ウェブサイトへの掲載」だけではやはり「周知」(の時点)が問題になることが考えられます。従って, 実際に実行する場合は, 上記A1で述べたように, ①登録ユーザに対しては電子メール・書面送付等により個別に通知, プラス, ②それ以外の(連絡不能な)ユーザ向けに事業者ウェブサイト上での予告とすべきでしょう。
・一方, 料金増額の場合は, 確定的な最低予告期間を明記しておいた方が有効性が高まると思われるので, それを明記しています。しかしながら, 実際に料金増額を行う場合には, 予告期間を, 必ずしも上記最低予告期間(「最低○日前までに」の部分)にかかわらず増額幅に応じた十分な期間とする等の配慮が必要になります。
・なお, 最初の契約期間開始時または契約更新時に各契約期間分の料金全額を一括徴収する場合は, 上記のような規定があっても, 契約期間中の料金増額は余程の正当化理由がない限り有効に行うことは困難と思われます。
(c) 契約期間中でもサービス内容の変更ができる旨規定しておく。
(例文)「当社は, 契約期間中でも, 必要と判断した場合, 本サービスの内容の変更(機能の追加, 変更・代替および廃止を含む)を行うことができるものとします。この場合, 当社は, 事前にその変更をする旨, 変更後のサービスの内容および変更の時期を, 当社ウェブサイトへの掲載その他当社が適切と判断する方法で告知するものとします。また, 当社は, その変更がお客様の本サービス利用に重大な支障を生じさせると判断した場合には, 最低○日前までにこの告知を行います。(この重大変更の場合, お客様は, 当社の告知後○日以内に当社に通知することにより, 本契約を解除し, 変更後の残存契約期間分について支払い済み料金の返金または支払い前料金の支払免除を受けることができます。)」 |
・括弧内はこのようなことを書いていない例が多いですが, ここではこの変更の有効性を高める事情(民法第548条の4第1項第2号の「事情」)として, 各企業の判断により追加できるオプション規定として記載しました。
・このオプション規定の内容は, 利用規約上は書いておかないで, 実際にサービスの一部廃止・変更等を実施しようとする場合において, それによりユーザに生じる不利益が大きいと判断したときに, その告知文中に記載することも考えられます。
(d) 契約更新時には更新時に有効な利用規約が適用される旨規定しておく。
(例文)「お客様が本サービスの契約期間を更新された場合には, 更新後の本サービスの提供には更新時点で有効な当社公表利用規約が適用されます。」 |
・この規定も, 上記(a)と同様, 遅くとも(仮に次の(e)の規定による変更が無効でも), 更新時点では変更後の利用規約の適用を可能にすることを意図したものです。
・もっとも, これは定型約款の「変更」ではなく, 変更後利用規約についての民法第548条の2([最初の]定型約款の合意)第1項第一号または第二号によるみなし合意に該当するのかもしれません。
(d) 契約期間中でも利用規約全般について変更ができる旨規定しておく。
(例文)「当社は, 本規約で定める他の場合に加え, 次のいずれかの場合, 契約期間中でも, 本規約の内容を変更できるものとします。 ①その変更が, お客様一般の利益に適合する場合。 ②その変更が, 契約をした目的に反せずかつ変更に係る事情に照らして合理的なものである場合。 この場合, 当社は, 事前にその変更をする旨, 変更後の本規約の内容およびその変更の適用時期を, 当社ウェブサイトへの掲載その他当社が適切と判断する方法で告知するものとします。」 |
・民法第548条の4第1項の文言に沿って規定していますが, 「変更の必要性, 変更後の内容の相当性」等の文言は「変更に係る事情」に包含され, また, その「必要性」・「相当性」についてユーザとの間で議論になることを避けるため省略しています。「周知」の「告知」への書き換えについては上記(b)参照。
Q3: 利用規約に工夫をしていない場合に不利益変更を有効に行うには?
A3: 確実・完ぺきは望めませんが, 例えば, 以下のようなことが考えられると思います。
(a) 変更を望まないユーザに対し契約解除権を与える。
以下に, この場合の具体的実施例として, 上記A1の電子メール予告通知例文に一部追加したものを示します。
(前略) ■変更後の利用規約(全文)の内容 こちらからご覧いただけます。 ■お客様が変更後規約の適用をお望みでない場合 お客様は, ××××日までにお客様の○○○○アカウントを解除してこの適用を拒絶できます。この場合, 解除後○○○○はご利用いただけません。 今後とも○○○○をご愛顧賜りますよう, 何卒よろしくお願い申し上げます。 (後略) |
(b) 予告通知から変更の効力発生時期までの期間(予告期間)を長期化する。
例えば, 大部分のユーザには有利となるが一部ユーザには不利となる変更の場合, 予告期間を数日~1週間前ではなく, 1か月~数か月前までにすることなどです。
(c) 必要に応じ上記(a)と(b)を組合わせる。
今回はここまでです。
[2]
【注】
[1] 例文については主に以下を参考とした。(1) 「AWS カスタマーアグリーメント」(2, 5, 7, 12), (2) 「マネーフォワード クラウド」利用規約(第9条2, 第19条, 第27条). (3)「cybozu.com サービスご利用規約」(9-1, 18, 28).
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(*) このシリーズでは, 読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし, そのような疑問・質問がありましたら, 以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが, 筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。
review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)
【筆者プロフィール】 浅井 敏雄 (あさい としお) 企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事 1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系・日本・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際取引法学会会員, IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe) 【発表論文・書籍一覧】 |
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