「従業員数基準」を新設へ、下請法改正の動き
2024/12/18   契約法務, コンプライアンス, 下請法

はじめに

 公正取引委員会と中小企業庁は17日、有識者会議で下請法改正に関する報告書をまとめました。資本金基準に加え従業員数基準の新設を目指すとのことです。今回は下請法の適用要件と改正の動きを見ていきます。

 

改正の経緯

 下請法は親事業者による、下請事業者に対する優越的地位の濫用的行為を規制するために制定された法律とされます。例えば下請事業者に責任がないにもかかわらず親事業者が発注後に代金を一方的に減額したり、協賛金や協力費などの名目で金銭を要求するといった行為が禁じられております。有識者会議の報告では、30年間続いてきたデフレが企業や労働者の行動を萎縮させ、イノベーションをそぐ一因となっていると指摘し、価格転嫁が進まない商慣習を見直す必要性を強調しております。現行の下請法では適用の有無が資本金を基準に判断され、3億円超の企業が3億円以下の企業に発注するといった場合が対象となります。しかしコロナ禍により減資して優遇税制を受ける企業が相次ぎ、また取引先に増資させ適用を逃れる例が見られたとされます。そこで資本金以外の適用基準を新設する動きが見られております。

 

下請法の適用基準

(1)物品の製造・修理委託および政令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合

 下請法2条1項~8項では下請法が適用となる要件が定められております。まず物品の製造や修理委託、情報成果物や役務の提供委託の場合、親事業者側の資本金が3億円超の場合、下請事業者側は3億円以下となります。そして親事業者側の資本金が1千万円超~3億円以下の場合は、下請事業者側は1千万円以下となっております。なお下請事業者側はいずれも個人を含むとされております。

(2)情報成果物作成・役務提供委託を行う場合

 情報成果物・役務提供委託を行う場合(上記(1)のものを除く)は親事業者側の資本金が5千万円超の場合、下請事業者側は5千万円以下となります。そして親事業者側の資本金が1千万円超~5千万円以下の場合は下請事業者は1千万円以下となっております。

 

改正案の概要

 上記のように下請法は親事業者と下請事業者の資本金の相関関係で適否が決まります。しかし資本金がベースとなっているので例えば親事業者が資本金を1千万円以下にまで減資したり、下請事業者の資本金を増資させるなどした場合、適用を逃れることが可能となってしまいます。そこで改正案では従業員の数をベースとする新たな基準の導入が盛り込まれる予定とされます。具体的には製造業では親事業者側が従業員数300人超で下請事業者側が300人以下、サービス業では親事業者側が100人超で下請事業者側が100人以下となっております。また下請法で禁止されている行為のうちの「買いたたき」について、十分な協議を経ない一方的な代金の決定も禁止とし、また企業の上下関係を印象付ける「下請け」の用語も見直し、法律名自体も変更する方針とのことです。

 

フリーランス保護法の場合

 先日も取り上げたように今年11月からフリーランス新法が施行されました。これは既存の下請法では保護できないフリーランス事業者を保護し、企業とフリーランスの取引の適正化や就業環境の整備を目的としております。同法での保護対象であるフリーランスは「特定受託事業者」と呼ばれ、(1)従業員を使用しない個人事業主と、(2)代表者1人以外に役員や従業員がいない法人となっております。そして委託する側の要件は従業員または役員の有無、委託期間で変動があります。まず従業員や役員の有無にかかわらず適用されるのが書面等による取引条件の明示義務です。これはすべての委託業者に適用されます。次に従業員または役員が存在する法人の場合、さらに期日における報酬支払い、募集情報の的確表示、ハラスメント対策に係る体制整備が義務付けられます。業務委託期間が1ヶ月以上である場合はさらに受領拒否や報酬減額等の禁止行為が適用となります。業務委託期間が6ヶ月以上である場合はさらに育児介護等と業務との両立に対する配慮、中途解除等の事前予告・理由開示が義務付けられます。

 

コメント

 以上のように公取委と中小企業庁は下請法の適用要件である資本金基準に加え、従業員の数をベースとした基準の新設を検討しております。また買いたたき規制の強化や下請法の法律名の変更も検討しており、来年の通常国会への提出を目指しているとされます。近年コロナ禍や世界情勢の不安定化などを受け、業績が悪化した企業を中心に減資による優遇税制適用や、完全子会社化と上場廃止など組織再編が進んでおります。それに伴い下請事業者が適切に物価高等に伴う価格転嫁ができていないとも指摘されております。今回の改正案が成立した場合、これまで保護の対象ではなかった取引相手事業者が新たに保護の対象となる場合も予想されます。現行法の適用要件に加え、改正案の要件やフリーランス保護法の要件についても再確認し、社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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