日本郵便がヤマト運輸に120億円の損害賠償を求め提訴、配達委託停止で反発
2024/12/26 契約法務, 戦略法務, 訴訟対応, 物流
はじめに
日本郵便株式会社は12月23日、ヤマト運輸株式会社に対し損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所に提起したと発表しました。
ヤマト運輸は、2023年に締結した基本合意に基づく協業について日本郵便に見直しを要求していましたが、これに対し、日本郵便が協業準備の費用など120億円の損害賠償を求めた形です。
日本郵便がヤマト運輸を提訴
日本郵便の発表などによりますと、日本郵便はヤマト運輸と2023年6月19日に『持続可能な物流サービスの推進に向けた基本合意』を締結。ヤマト運輸のメール便と、クロネコゆうパケット(小型の薄型荷物)の配達を日本郵便に委託することで協業するという合意がなされました。この合意では、日本郵便・ヤマト運輸それぞれで集荷した荷物を日本郵便が配達し、その委託料をヤマト運輸が日本郵便に支払うことになっています。
この合意に基づき、今年2月にはヤマト運輸のメール便が完全委託されたほか、クロネコゆうパケットも2023年10月から順次、委託を開始。来年2月までに日本郵便に全てを委託する計画でした。
しかし、クロネコゆうパケットについて、ヤマト運輸側から「2025年1月~2026年3月の間の委託を中断したい」と計画変更の申し入れがあったということです。背景には、配達委託を進めるなかで、従前よりお届けまでの日数が伸びてしまう事態が発生していたという事情があったといいます。
今年12月18日には、ヤマト運輸が会社のホームページで、協業の主旨および基本合意書に基づき「切り替えに伴う配達委託スケジュールの見直しに係る申し入れを行う」旨、公表していました。
一方で日本郵便の発表などによりますと、ヤマト運輸側は“合意に基づく運送業務の委託義務”の存在自体を争っており、日本郵便の承諾なしに運送委託停止に向けたアナウンスや準備を進めていたということです。
そのため、2025 年 2 月を予定していた日本郵便の配送網を活用した両社によるクロネコゆうパケットの投函サービスの全国展開については、予定どおりの実施が困難となる見込みだとしています。
こうした状況を受け、日本郵便は12月23日、「ヤマト運輸が基本合意に基づいて小型薄物荷物の運送業務を委託すべき義務があること」の確認を求めると共に、協業の見直しで損害が生じるとして、120億円(協業準備にかかった費用50億円+委託で得られるはずだった逸失利益の一部として70億円)の損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所に提起しました。
「持続可能な物流サービスの推進に向けた基本合意」の進捗状況およびヤマト運輸に対する損害賠償等請求訴訟の提起について_日本郵便株式会社
ヤマト運輸側の主張は?
日本郵便がヤマト運輸からの申し入れを「一方的」と主張する一方、ヤマト運輸側は「段階的に計画見直しの申し入れをしてきた」と主張しています。
ヤマト運輸によると、今年10月に計画の見直しを申し入れたうえで、翌11月に収益確保などを理由に「2025年1月からの委託停止」を提案したとしています。
また、日本郵便側が損害の補填を求めている点についても、2023年に締結した基本合意は“暫定的”なものだったとして、履行義務や賠償責任を否定していると報じられています。
コメント
物流における“2024 年問題”や環境問題をはじめ、物流をめぐる社会課題の解決を目的として締結された、物流大手二社間の基本合意。大きな期待をもって迎えられましたが、一方で、基本合意に基づく座組みを実行するうえで、新たなシステム対応や顧客対応が発生するなど、障壁は少なくなかったといいます。
今回、ヤマト運輸側は、基本合意が暫定的なものであったとして、運送業務を委託する義務の存在自体を争っているとされていますが、その点、基本合意の中で、どのような取り決めがなされていたのか。「実施状況を見ながら内容を見直す」旨の規定が盛り込まれていたのかなど、気になるところです。今後の裁判の行方が注目されます。
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