Q&Aで学ぶ英文契約書の基礎 第25回 - 定義/当事者の関係/見出し/存続 条項
2021/10/25 契約法務, 海外法務
今回は一般条項の内まだ解説していなかった以下の条項を解説します。[i]
定義(Definitions)条項/当事者の関係(Relation of the Parties)条項/見出し(Headings)条項/存続(Survival)条項
なお、「一般条項」として、他に、秘密保持(Confidentiality)/契約期間(Term)/契約の解除・解約(Termination)/(損害賠償等の)責任の制限(Limitation of Liability)/代金・ロイヤルティーの支払いおよび税金(Payments and Tax)/”Time is essence”/輸出管理規制・贈収賄禁止その他法令遵守(Compliance with Law)/政府許認可(Government Approval)等に関する条項を含める場合もあります。これらについては次回以降解説していきます。
Q1:英文契約書では最初に長文の定義条項が置かれていますが、定義条項の読み方・書き方を教えて下さい。
A1: 以下に定義(Definitions)条項の例を挙げます。(「①」等は解説の便宜上の番号です)
① ARTICLE 1. DEFINITIONS 第1条 定義 ② In addition to terms elsewhere defined in this Agreement, the following terms shall have the meanings set forth in this Article 1 for purposes of this Agreement: 本契約の他の箇所で定義されている用語に加え、本契約において、以下の用語は本第1条に定める意味を有する。 ③ 1.1 “Licensed Patent” means … 1.1 「許諾特許」とは… ④ 1.2 “Licensed Product” … 1.2 「許諾製品」とは… |
①: 英文契約において定義条項は第1条として置かれることが多いと言えます。但し、最近では特にクラウドサービス等の約款・契約条項等でそれらの最後に置かれる例も見受けられます[iii]。これらのサービスは一般向け(個人ユーザを含む場合もある)なので最初に長い定義があると印象が悪いということでしょう。日本国内の契約と比べ英文契約で長文の定義が置かれる理由・目的は、契約上用いられる言葉の意味について、文化的背景・考え方・法律制度等が異なる当事者間において可能な限り食い違いが生じないようにするためでしょう。
②: 最初の“In addition ….Agreement,”の部分は、定義条項の他にも契約書の他の箇所で用語の定義がなされている場合があることを示します。契約全体を通じ繰り返し使われる用語は基本的に定義条項の中でまとめて定義されますが、当事者の契約上の略称(例:” Licensor,” “Licensee”)、特定の条項や契約別紙(Exhibit等)の中だけで登場する用語等についてはそれらの中で定義されていることもあります。
③, ④: “Licensed Patent” means ….のように、定義される用語はそのことが明確になるよう、定義条項においても各条項においても頭文字を大文字にすることが一般的です。” means”の部分は” shall mean”でも構いません。定義条項の目的は、契約書中に何度も登場する用語が、どの箇所でも同じ意味に理解されるようにすることです。従って、定義すべき用語は契約ごとに異なります。例えば、上記は特許ライセンス契約の定義条項の例ですが、同契約では以下のような条項が最も中心となる条項であり、この中で頭文字が大文字となっている用語は契約全体を通じ何度も登場するので定義が必須となります。
2.1 Subject to the terms of this Agreement, Licensor grants to Licensee under the Licensed Patents a non-exclusive license to make, offer to sell, sell, and import, or lease the Licensed Products in the Licensed Territories. 2.1 本契約の条件に従い、ライセンサーは、ライセンシーに対して、「ライセンス対象特許」に基づいて、「ライセンス対象地域」において、「ライセンス対象製品」を製造し、使用し、販売を申し出、販売し、輸入しまたは賃貸する非独占的権利を許諾する。 |
(定義条項の書き方) 上記の通り、定義を置いた以上、その用語は契約書のどの箇所でも同じ意味に解釈されるので、一旦契約書案を作成し終えたら、その用語がどの箇所でも同じ意味に理解されてもよいかをチェックしましょう。もし、問題があれば、その問題が生じる条項では但書(“provided, however, that..” “except for…”等)を置くことや、定義自体を修正する等、必要な対応をしなければなりません。
定義条項における各用語の順番としては、主に、重要性の高い順に並べる方法と、アルファベット順に並べる方法とがあります。
Q2: 「当事者の関係(Relation of the Parties)」条項とはどのようなものですか?
A2: 以下に例文を示します。
Nothing in this Agreement shall be deemed to constitute ① a partnership or joint venture between the Parties or constitute any Party to be ② the agent or employee of the other Party for any purpose. 本契約のいかなる条項も、両当事者間の①パートナーシップもしくはジョイント・ベンチャーを成立させるものではなく、また、如何なる目的のためにも、一方の当事者を相手方当事者の②代理人(agent)もしくは従業員とするものでもない。 Neither Party shall have authority or power to bind the other Party or to contract in the name of, or create a liability against, the other Party, in any way or for any purpose. いずれの当事者も、如何なる目的のためにもまた如何なる方法によっても、相手方を拘束しもしくは相手方の名義で契約しもしくは相手方に責任を負わせる権限を有しないものとする。 |
この条項は、” Relation of the Parties”の他、” Independent Contractors,” “No Agency or Partnership,” “Independent Parties”等の標題がついていることもあります。販売店(Distributorship)契約、コンサルタント契約、ライセンス契約等、一方の当事者が相手当事者に何らかの権限を与える契約でよく見られます。
① ”partnership(パートナーシップ)”: 各国・各州の法により異なリますが、一般的には、複数の者により構成される比較的長期間継続される組織を意味します。各構成員は、パートナーシップの利益および事業運営の支配権を共有し、パートナーシップの債務に対し共同で責任を負います。[v]
”joint venture”(ジョイント・ベンチャー):各国・各州の法により異なリますが、一般的には、複数の者が共同で運営する比較的短期間の事業を意味します。各参加者が資産を提供しリスクを共同で負担します。[vi]
② “agent”(代理人): 他の者(principal:本人)に代わり何らかの行為を行う権限を有する者(特に契約に基づく任意代理人)を意味します。[vii]
【「当事者の関係(Relation of the Parties)」条項の目的・効果・必要性】 [viii] 相手方当事者(例:販売店側)または第三者がこの条項に規定されているような関係があると主張(してパートナー等としての責任を追及)することまたは裁判所がこのような関係があると認定することを防止することを目的とします。但し、これは事実関係についての法的評価の問題であり、裁判所がこれに拘束されることはなく、裁判所が判断する際に考慮される可能性があるに過ぎません。Partnership, Joint Venture, Agent等の契約では当然これらの関係があるのでこの条項は基本的に不要です。また、単なる売買契約等ではこれらの関係があると認定される可能性が低いのでこの条項がないことも多いと言えます。
Q3: 「見出し(Headings)」条項とはどのようなものですか?
A3: 以下に例文を示します。
The headings used in this Agreement are inserted solely for the purposes of convenience and shall not affect the construction hereof. 本契約上使用される見出し(headings)は専ら便宜のために挿入されており、本契約の解釈に何ら影響を与えないものとする。 |
日本国内の契約でも同じですが、特に長文の英文契約では当事者の便宜のために各条項に「見出し(Headings)」が付けられることが多いと言えます。一般的には、各条項の見出しはあくまで当事者の便宜のためであって必ずしも当該条項の内容を適切・網羅的に表すものではありません。しかし、米国等の判例によれば、この見出しが、それが付けられた条項の解釈に影響を与えることがあります。従って、上記のような規定により裁判所が契約解釈上見出しを考慮することを防止しようとするものです(但し裁判所はこれに必ずしも拘束されません)。
Q4: 「存続(Survival)」条項とはどのようなものですか?
A4: 以下に例文を示します。
The provisions of Articles 3.1, 5.1 ......... and 15.5, and any other provisions of this Agreement that by their nature are intended to survive termination or expiration of this Agreement, shall survive the termination or expiration. 本契約のArticles 3.1, 5.1 ......... および15.5の規定、並びに、その性質上本契約の解除または期間満了後も存続することが意図されている規定は、当該解除または期間満了後も存続するものとする。 |
契約が解除または期間満了により終了した場合、ある規定(例:競業避止義務)(に基づく権利義務)が契約終了後も存続するのか否かが問題になることがあります。上記の規定は、当事者が契約終了後も存続させることを意図する規定を明確化したものです。
(存続条項に含められることが多い規定の例)
① Confidentiality(秘密保持)、Non-Competition(競業避止)、Warranty (製品保証)、Representations and Warranties(表明および保証)、Indemnity(補償・免責)
② Effect of Termination(契約終了後の措置)、Arbitration(仲裁)、Governing Law(準拠法)
(独立した存続条項は置いた方がいいのか?) 一般的には、独立した存続条項を置くよりも、上記①のような条項について個別にその条項自体に契約終了後も存続する旨(および場合によりその存続期間)を規定した方がよいと思われます。
(理由)
上記①のような条項については、それら条項(に基づく権利義務)が契約終了後も存続すること(および場合によりその存続期間)を、その条項自体に規定する方が規定し易くかつ理解し易いと言えます。
上記②のような条項については、それらが契約終了後も存続適用されることは当然なので、それが明記されていなくても存続すると解釈されます。
一方、独立した存続条項に該当する規定を列記する場合、ある規定を存続させるべきなのか否か迷う場合もあります。また、列記した結果、それが網羅的なものと認定され、列記し漏れた規定は存続しないと反対解釈される虞もあります(上記条項例ではこのことを考慮し下線部分を追加)。
「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第25回はここまでです。
【注】
[i] 【今回の主な参考資料】 (a) 山本 孝夫「英文ビジネス契約書大辞典 〈増補改訂版〉」2014年 日本経済新聞出版社 p 68-88, 183-188, 223-231, (b) 浅井敏雄「英文特許ライセンス契約」 『パテント』 2014年2月 p. 66~85
[ii] 【契約書の前文・本文等】 (参照) 「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎(2)- 英文契約書の形式・スタイル等①」
[iii] 【約款・契約条項の最後に定義条項がある例】 AWS Customer Agreement, Google Cloud Platform Terms of Service
[iv] 【「当事者の関係(Relation of the Parties)」条項】 (参考)(a) NATIONAL PARALEGAL COLLEGE(米の営利目的のオンライン遠隔教育機関) "Common Contract Clauses: Part 4-Module 6 of 6", (b) Gilbert + Tobin(豪州の法律事務所)"RELATIONSHIP OF PARTIES BOILERPLATE CLAUSE"
[v] 【partnership】 (参考) (a) Legal Information Institute "Partnership", (b) Legal Dictionary "Partnership"
[vi] 【joint venture】 (参考) (a) Legal Information Institute "Joint venture", (b) Legal Dictionary "Joint Venture”
[vii] 【agent】 (参考) (a) Legal Information Institute "Agent", (b) Legal Dictionary "Agent"
[viii] 【「当事者の関係(Relation of the Parties)」条項の目的と効果】 (参考)注4の参考資料
[ix] 【「見出し(Headings)」条項】 (参考)(a) Vincent R. Martorana "A GUIDE TO CONTRACT INTERPRETATION" July 2014, Reed Smith LLP p 48, 49, (b) NATIONAL PARALEGAL COLLEGE(米の営利目的のオンライン遠隔教育機関) "Common Contract Clauses: Part 4-Module 6 of 6"
[x] 【存続(Survival)条項】 (参考) (a) Ken Adams “Invoking Provisions That Are “Intended to Survive Termination”” February 9, 2016, (b) NICHOLAS TSIROGIANNIS “Life after termination - address contractually or leave to the common law?”, 12 MAR 2009, Clayton Utz, (c) Buddle Findlay - David Thomson and Andy Martin "Contracts – what endures beyond termination?" February 14 2013, Lexology
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【免責条項】
本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。
(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。
review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)
【筆者プロフィール】 浅井 敏雄 (あさい としお) 企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事 1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を日本・米系・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe) 【発表論文・書籍一覧】 |
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