【コラム】法務の鉄人(1)『ランチ』
2021/12/04
はじめに
私の認識が確かなら、法務担当者もまた、ビジネスマンである。
そして、ビジネスマンであるからには、所属する会社が目指すべきもの、理想とすべきことを実現するために働くのがその使命であるといえよう。
今日では、法科大学院卒の法務・コンプライアンス担当者が増えた。私自身もそうである。
法科大学院制度自体は、残念ながら当初の理念とは大きく異なる道を歩むこととなってしまっているが、企業における法科大学院出身者のニーズは非常に高まっている。ある企業の法務部のメンバーは大半が法科大学院出身者であるし、マネージャークラス、役員クラスにも登用されているところもある。法科大学院で学んだ者の潜在価値は高いのである。
しかし、期待を込めて法科大学院卒を採用してみたところ、どうにもうまく仕事にマッチしない、期待している役割を担ってくれない、知識はあるのに勿体無いなぁ、というような事態が起こることは少なくない。それは当然で、法科大学院卒の多くは企業で働くことのないまま中途採用の即戦力として採用されていることにミスマッチがあるからである。もちろん、どれだけ職歴を重ねても同じように思われてしまう人もいるし、職歴がなくても、立派に活躍する人もいるが。
私のコラムでは、そうした、「法務やコンプライアンスの知識はあるが、どうにも会社でうまくやっていけない」というような法務・コンプライアンスパーソンが、社内で活躍して大きな役割を担えるように育っていくための手助けをしていきたいと考えている。
「初心者」が読んでも、明日から使えるノウハウが身につくと思うし、メンターやマネージャーには、指導や教育、その他法務・コンプライアンス情報を日々の業務に役立てていただければ幸いである。
ランチを食べることの意味
それでは、まず第1回の課題は、『ランチ』である。
中途採用で会社に入社して、同じ部署の同僚や上司と、あるいは他の部署の同僚や上司と、忌憚なく話をできる機会の最たるものはランチである。
大抵は、出身地の話、趣味の話から始まり、それぞれとの共通点が見つかるなんてこともある。そして、段々とランチの雑談でもビジネスの話が出てくるようになる。
部署や職位を問わず、さまざまな人とランチを食べることの意味は二つある。
・お互いに認識されること。
・ビジネスを知ること。
「お互いに認識されること」は、非常に重要である。法務やコンプライアンスのようなバックヤード部門は、いざという時にビジネスサイドから助けを求められることが多い。当たり前のことであるが、そのとき、知らない人には助けを求めない。したがって、顔が広くならなければ、任せられる仕事も減る。
もうひとつ、「同じ釜の飯を食べた仲」というわけでもないのだろうが、一度一緒に食事をすることで、本音や本当のことを話してくれる環境ができやすくなる。
法務部門やコンプライアンス部門は、時にはモニタリングや、アセスメント、事故の調査などで、ビジネスチーム側に調査などを行うようなケースがある。
たとえば、反贈収賄体制の構築を行おうとする場合、事業部や国内外の子会社に、賄賂の授受の実態を調査する。このとき、本社からきた知らない法務担当者に「賄賂を受け取ったり、渡したりしていますか?」と聞かれて、「はい、やっています」と堂々というケースは、極めて少ないだろう。なぜなら、頭の中では、賄賂の授受はコンプライアンス的によくないことというのは分かっているから処罰を恐れるからである。
しかし、法務・コンプライアンス部門としては、「本音を言ってくれないから仕方がない」では済まされない。
こうした反贈収賄体制の構築は、リスクベースアプローチといって、実際にどのようなリスクがあるから、会社としてはそれに対応し、会社としてどのような体制を作っていくかということが重要なのである。つまり、実際に賄賂の授受があるのならば、それを前提にどうやって無くす方向に変えていくかが、この体制構築の肝であり、処罰をするためのヒアリングをしているわけではない。また、実際には賄賂の授受が行われているにもかかわらず、社内でこれを把握せず、仮にその賄賂の授受が摘発された場合には、反贈収賄体制の構築の意味がなくなってしまうのである。
こうした贈収賄の実態のアセスメントを行う場合、成功のポイントが2つある。1つは、交通費などを惜しまず、直接会ってインタビューを行うこと。もう1つは、事前にインタビューの対象メンバーと一緒に食事をしていることである。この2つを行うかどうかで、本音を話してくれるかどうかに非常に大きな差が出る。この食事の効果には、私自身、非常に驚かされた。
付言すると、同じような効果は、夕食や一緒に飲みに行っても得られる。ただ、やはり最初は、ノンアルコールをお勧めしたい。アルコールが入ると人間愚痴っぽくなるし、酔ってくるとせっかくの話も本当かどうかよく分からなくなってくるからである。それでは意味がない。
続いて、2番目の「ビジネスを知ること」。
中途で入社をして、まずしなければならないのは、これである。自分が所属することとなった会社が行っているビジネスを知ること。そのビジネスもBtoCであれば自分で試してみることも重要だと思うが、BtoBのビジネスだと、理解するのもなかなか難しい。
ならば、実際にそのビジネスを担っている事業部の人たちとランチをしながら、会社の強みや日々の業務の悩み、場合によっては自社の弱点を聞いておくことは非常に重要である。それらを知ることで、契約書のドラフトに生かせるし、コンプライアンス体制の構築にも役立つ。ビジネスのことが分からなければ、いうまでもなく、自己流や机上の空論で法務やコンプライアンスの業務を行うことになる。それが機能するか?空回りすること必至である。
【今回のまとめ】
- 同僚とランチを一緒に食べて話をしよう。
- 互いに信頼できる関係構築の第一歩。
- 会社が行っているビジネスを知ることが非常に重要。
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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。
【筆者プロフィール】 Harbinger(ハービンジャー) 法学部、法科大学院卒。
その後、稀に見る超ブラック企業での1人法務を経て、スタートアップ準備(出資集め、許認可等、会社法手続き、事業計画等)を経験。転職した後、東証一部上場企業の法務部で、クロスボーダーM&Aを50社ほど経験。また、グローバルコンプライアンス体制の構築に従事。 現職はIT企業のコンプライアンス担当。大学において、ビジネス法の講師も行う。 |
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