株主提案の手続きと対応 まとめ
2024/04/10 商事法務, 総会対応, 会社法
はじめに
今年もまもなく定時株主総会の季節がやってきます。多くの企業にとってこの定時株主総会を問題無く無事に乗り切ることは重要な課題と言えます。
そんな中、近年ではいわゆる「物言う株主」が積極的に株主総会に参加し、会社の運営方針や役員の選解任、果ては会社の組織再編などにまで意見を述べる時代となっています。
先日も香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」が花王株の3%超を保有し、株主提案などあらゆる選択肢があるとの認識を示していました。
今回は、株主が会社の株主総会に積極的に参加する制度である「株主提案権」について詳しく見ていきます。
株主提案権とは
株主提案権とは、一定の株式数を一定期間保有する株主が、株主総会において議題ないし議案を提案する権利とされています。具体的には議題提案権(会社法第303条)、議案提案権(第304条)、議案の通知請求権(第305条)となっています。
ここで「議題」と「議案」の違いについて触れておきます。「議題」とは株主総会の目的そのものであり、たとえば「役員選任の件」「定款変更の件」といったものを指します。
これに対し、「議案」とはそれら議題に対応する具体的な中身と言えます。たとえば「取締役としてA氏を選任する」「定款○○条を次のように変更する」などといったものです。
株主が会社の運営に相応しくないとして特定の役員を解任したいと考える場合や、会社が提案する役員候補よりも他の候補を推薦したいと考える場合などにこれらの株主提案権が利用されることとなります。
以下、具体的に見ていきます。
議題提案権
(1)行使要件
一定の事項を会議の目的とすることを請求する「議題提案権」には一定の行使要件が定められております(第303条)。
まず、株式数による要件として議決権の1%以上(これを下回る割合を定款で定めた場合はその割合)または300個以上の議決権(これを下回る数を定款で定めた場合はその個数)を保有している必要があります。
この点は公開会社・非公開会社の別なく同様ですが、公開会社の場合はさらに6ヶ月前(これを下回る期間を定款で定めた場合はその期間)から引き続き保有していることが必要です。非公開会社の場合はこのような期間制限はありません。
なお、取締役会非設置会社の場合はこれらの株式保有要件は無く、1株でも所有している株主であればだれでも行使可能です。
(2)行使方法
議題提案は株主総会の8週間前まで(これを下回る期間を定款に定めた場合はその期間)に、取締役に対して行使することとなります。この8週間前までという期間制限も、取締役会非設置会社の場合は適用が無く、会場で新たな議案とともにいきなり提案することも可能ということです。
取締役会非設置会社は非公開の小規模な会社と想定されており、それぞれの株主が緊密に会社運営に関わっていることから、このようにいつでも議題を提案して会議に乗せることが可能とされております。
(3)拒否事由
議題提案には一定の制限が存在します。まず、提案を行う当該株主がその議題につき議決権を行使できない場合が挙げられます(第303条1項カッコ書き)。
議決権制限株式で制限された議決権に関する議題は自ら提案することができないということです。たとえば、役員選任については議決権が制限されている株主自身が、役員選任の件という議題を提案することはできません。
次に、株主総会の決議事項ではない場合も当然に提案ができません。取締役会設置会社は株主総会で決議できる事項が会社法と定款で定められた事項に限定されており(第295条2項)、提案できる議題もその範囲内とされます。
たとえば、配当可能な剰余金が無いにもかかわらず剰余金配当を提案するといった場合も法令に反する提案と言えます。
議案要領通知請求権
(1)行使要件
議案要領の株主への通知を請求する権利にも行使要件があります。これは上で触れた議題提案権と同様の要件とされます。
つまり議決権の1%または300個の議決権を保有し、公開会社の場合は6ヶ月前から引き続いて保有していることが求められます。そして、取締役会非設置会社は単独株主権となっており、これらの制限は無く1株保有しているだけで行使できるのも同様です。
(2)行使方法
議案要領通知請求の行使も議題提案と同様に株主総会の8週間前までに取締役に対して行うという点では同様です。
議案の要領は株主総会の招集通知を書面でするときはその書面に、書面に代えて電磁的方法による場合はその電磁的方法に記載または記録して株主に通知することを請求することができます。
(3)拒否事由
議案要領通知請求にも拒否事由が定められており、その議案につき当該株主が議決権を行使できない場合や、提案された議案が法令または定款に違反する場合はやはり通知請求ができないということです。
たとえば、「欠格事由に該当する者を取締役に選任する」といった議案の通知請求などが挙げられます。また同一の議案につき、以前に議決権の10%以上にあたる賛成を得られず、その日から3年を経過していない場合も提案が制限されます。
さらに、取締役会設置会社において、1人の株主が1回の株主総会において通知請求できる議案の上限が10個までと定められております(第305条4項)。これは令和3年施行の改正で導入されたもので、1人の株主が膨大な数の議案の提案を行い、円滑な進行を妨げるといった濫用的提案を防止することを目的としています。
なお、10を超える数の議案が提出された場合、どの提案を取り上げるかについては、株主が優先順位を設けている場合はそれにより、定められていない場合は取締役が決定してよいとされます。
議案提出権
議案要領通知請求は上記のような制限が置かれておりますが、株主総会当日に議案を提出すること自体は株式の保有要件や期間制限などはありません。1株でも保有していれば提案することが可能です。
ただし、やはり要領通知請求と同様に、その議案自体が適法なものでなければならず、提案者自身が決議できないような議案や、以前に10%以上の賛成を得られず否決され、3年を経過していないものなどはやはり不可ということです。
株主提案に関する裁判例
ここで株主提案に関する裁判例を1つ紹介します。この事例では、株主が会社に114個もの議案を提案し通知請求したところ、会社が議案の全てを招集通知に記載しなかったというものです。株主は招集通知に全て記載しなかったこと、議案の削減が強制されたこと、議案の内容が改変されて記載されたことなどを理由に損害賠償を求め提訴しました。
この事例で裁判所は、当該株主がそれ以前に株主提案権を行使したことがなく、その提案内容も取締役の解任議案であったこと、親族である会社役員との確執があったこと、ツイッター投稿内容などから会社を困惑させる目的があったことなどを理由として、株主提案権の濫用としました(東京高裁平成27年5月19日)。
株主提案への対応
株主提案がなされた場合、そもそもの前提として、「当該株主提案が会社法の要件等を満たしているか」、その適法性をチェックする必要があります。
そのために、まずは、提案株主が上述した株式の保有要件を満たしているかを確認する必要があります。これは公開会社、非公開会社、取締役会非設置会社に分けて検討します。
次に、提案が株主総会の日の8週間前までに請求されているかチェックします。この8週間というのは株主総会当日と提案権の行使日を参入せずにその間に8週間の日数が存在する必要があります。たとえば株主総会の日が6月20日である場合は4月24日までに行使されている必要があります。
続いて、提案された議題や議案の内容が法令や定款に違反していないかチェックします。提案数についても現在では10個までと上限が設けられていることから、それを超える場合は取り上げる議案を決定する必要があります。
最後に過去3年以内に同様の議案が提案されていないか、されている場合は当時10%以上の賛成を得られているかも確認する必要があります。
まとめ
以上のように、株主には、議題提案権・議案要領通知請求権・議案提出権の3つの株主提案権が認められています。それぞれに行使のための要件や行使方法、拒否事由も定められています。
令和3年改正でもあるように、現在は議案の提案数が1人10個までと制限されており、これを超える提案は取り上げる必要はありません。
株主提案は、従前、しばしば嫌がらせ目的や総会屋的な悪用がなされてきた経緯があり、こうした会社法上の制限につながったという背景があります。また、近年ではいわゆる“物言う株主”が増えており、積極的に株主総会に参加して株主提案権を行使したり、役員に説明を要求するといった例が増えています。
株主総会の招集や運営に関する手続きに違反があった場合は、後日株主から株主総会決議取消の訴えを提起されるリスクもあります。これらの手続きを正確に把握して準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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