「違法ダウンロード刑罰化の効果」 ファイル共有ユーザーが大幅減、しかし音楽配信売り上げ回復せず
2013/02/28 知財・ライセンス, 著作権法, エンターテイメント
事案の概要
「Winny」「Share」などP2P技術を利用したファイル共有ソフトの利用者は2013年3月時点で前年から3―4割減少した、とコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)が調査結果をまとめた。違法ダウンロード刑事罰化を含む改正著作権法の施行後大きく減少している。しかし日本レコード協会(RIAJ)が集計したインターネット音楽配信の売上高は減少を続けている。
2013年1月18、19日に主要ファイル共有ソフトのネットワーク上に流通している情報を自動取得し、分析した。まずWinnyのネットワークに接続している端末は1日当たり約2万台で前年3月の調査と比べ41%減少した。さらにShareへの接続は同36%減の約5万9000台、PerfectDarkへの接続は同31%減の約3万4000台だった。ACCSによると、これらのネットワークで流通するファイルの4―6割が無許諾で送信された著作物である。
各ネットワークの接続台数が減少した理由については、著作権団体などが加盟する「ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会(CCIF)」が実施してきたメールによる注意喚起活動や、刑事摘発の実施が効果を上げたと、ACCSは分析する。
また接続台数については、別途1週間単位で継続して推移を把握しているが、2012年10月の改正著作権法の施行に合わせて大きく減少しているという。
一方、RIAJがまとめた2012年のネット音楽配信売上高は542億9800万円で、前年比25%減となり、ピークの2009年から6割減。市場縮小の要因としては違法ダウンロードが挙がっている。これは「アップローダー」などファイル共有ソフト以外の手段が普及しているためか、別の要因があるのか、今後の推移が注目される。
参照条文
平成24年10月1日より、違法なインターネット配信から、販売または有料配信されている音楽や映像を、自らその事実を知りながら「違法ダウンロード」(録音・録画)する行為が、刑罰の対象となった 。
【改正の概要】
違法ダウンロードの刑事罰化に係る規定の整備
(1)違法ダウンロードの刑事罰化(第119条第3項関係)
私的使用の目的をもって、有償著作物等の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行って著作権又は著作隣接権を侵害した者は、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
「有償著作物等」とは、録音され、又は録画された著作物、実演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像であって、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。
また、「その事実」とは、「有償著作物等」であること及び「著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信」であることを指し、「その事実を知りながら」という要件を満たさない場合には、著作権又は著作隣接権の侵害に問われることはない。
なお、第119条第3項は親告罪とされており、著作権者からの告訴がなければ公訴は提起されないこととしている(第123条第1項)。
(2)国民に対する啓発等(附則第7条関係)
国及び地方公共団体は、国民が違法ダウンロードを行うことにより著作権又は著作隣接権を侵害する行為の防止の重要性に対する理解を深めることができるよう、当該行為の防止に関する啓発その他の必要な措置を講じなければならないこととしたこと。(第1項)
また、国及び地方公共団体は、あらゆる機会を通じて未成年者が違法ダウンロードを行うことにより著作権又は著作隣接権を侵害する行為の防止の重要性に対する理解を深めることができるよう、学校その他の様々な場を通じて当該行為の防止に関する教育の充実を図らなければならないこととしたこと。(第2項)
(3)関係事業者の措置(附則第8条関係)
有償著作物等を公衆に提供し、又は提示する事業者は、違法ダウンロードを行うことにより著作権又は著作隣接権を侵害する行為を防止するための措置を講じるよう努めなければならないこととしたこと。
(4)運用上の配慮(附則第9条関係)
法第119条第3項の規定の運用に当たっては、インターネットによる情報の収集その他のインターネットを利用して行う行為が不当に制限されることのないよう配慮しなければならないこととしたこと。
コメント
今回の著作権法改正による違法ダウンロードに刑事罰を科すことには、多数の反対意見がでていた。疑わしいサイトから、違法なものかもしれない音楽や映像をダウンロードした場合などに処罰対象になるかどうかの明確な線引きは難しく、実際の運用に懸念があるとも考えられていたからだ。
また、 日本弁護士連合会は、私的領域における行為に対する刑事罰を規定するには極めて慎重でなければならないところ、私人による個々の違法ダウンロードによる財産的損害は極めて軽微であり、いまだ刑事罰を導入するだけの当罰性ある行為であるとは認識されるには至っていないとして反対意見を表明していた。
しかし、違法ダウンロードの刑罰化については親告罪であるから、ダウンロード対象が音楽ファイルの場合、レコード会社やJASRAC等が権利者に該当し、裁判所に訴えなければ、違法ダウンロードしても刑事罰には問われることは無い。ただ、違法ダウンロードと名が付く通り、権利者から損害賠償請求の訴訟を提起されることも否定できない。
この点、文化庁HPでは、「警察は捜査権の濫用につながらないよう配慮するとともに、関係者である権利者団体は、仮に告訴を行うのであれば、事前に然るべき警告を行うなどの配慮が求められると考えられます。」と記載している。
このように、警察や著作権者が、今回の法律改正を巡る議論を十分に認識して、自制心をもって慎重に対応していく限りにおいて、いきなり損害賠償請求を受けたり、警察に逮捕されたりするような事態にはならないはずで、よほど悪質なやり方で違法にダウンロードするのでない限り、上記反対意見のような事態は避けられるのではないかと思われる。
だとすると、今回のようにファイル共有ユーザーが大幅減したことは、著作権団体などが加盟する「ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会(CCIF)」が実施してきたメールによる注意喚起活動等によって、多くの当罰性の低い安易な違法ダウンロード者に刑事罰の可能性を認識させ、違法ダウンロードの違法性をきちんと自覚してもらうという、法改正の目的に沿う一つの効果が出たのではといえる。
しかし、違法ダウンロードの規制によってもインターネット音楽配信の売上高は減少しているという。無料ということに慣れすぎ、もはや対価を払ってまでの音楽配信を望まないと考えてしまっているのか、新たな音楽ファイルの入手方法が存在するのか、著作権団体、インターネット音楽配信業界はこれからも試練が続くこととなりそうである。
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