便利と安全のあいだ 薬のインターネット販売制度、再整備へ
2013/05/01 薬事法務, 薬機法, その他
事案の概要
厚生労働省は26日、一般向け医薬品(大衆薬)のインターネット販売についての検討会で、制度案を発表した。それによれば、大衆薬のインターネット販売を届出制とし、販売業者に都道府県への届出を義務付ける。業者は、国や都道府県が作ったロゴをサイト上で表示しなければならない。こうする事で、消費者が違法業者か否か判断出来るようにする。当然、ロゴの偽造に対しては罰則が設けられる予定。
また、インターネット販売業者が擁する薬剤師の氏名や免許証などの画像をサイトに表示させる事や、届け出た業者のリストを厚生労働省や第三者機関のホームページ上で公開する事も検討されている。
大衆薬のインターネット販売については、今年1月に最高裁の判決が出ている(下記関連判例)。大衆薬は、副作用に特に注意が必要な第一類、副作用による被害のおそれがある第二類、それ以外の第三類に分けられており、最高裁は、第一類と第二類のインターネット販売を一律に禁止した薬事法施行規則を、薬事法の委任の範囲を逸脱しており違法無効と判断した。その結果、第一類と第二類のインターネット販売は、事実上解禁されている。
一方で、上記最高裁判決以前からインターネット販売が認められている第三類は届出制が採用されており、より危険性の高い第一類・第二類との間で、制度上の逆転が生じていた。今回の制度再整備は、この解消も目的としていると思われる。
コメント
コメント
利便性の追求と安全性の確保とのバランスは、永遠のテーマである。特に、副作用による健康被害が多数の人間に重大な影響をもたらし得る医薬品に関しては、慎重にならざるを得ない。
厚生労働省がインターネット販売の完全禁止に踏み切ったのは、薬剤師のいる薬局店頭での販売でなければ、大衆薬の利用に際しての安全性が確保されないと考えたからであろう。しかし、多くの店舗では、販売時間中、常に薬剤師が存在しているとは限らない。また、薬剤師の不在中に購入した大衆薬が深刻な健康被害を引き起こしたという事故報告も無い。
一方、利便性の面から考えると、外出の困難な老人や傷病者にこそ医薬品の需要は高く、インターネット販売の社会的な必要性は首肯される。
今回、厚生労働省が提案した届出制は、禁止は勿論、許認可制に比べても制約の程度が低く、既に第三類で採用されている事からすれば、最高裁判決を踏まえても妥当と考えられる。
ただ、店舗販売に比して、開設・閉鎖が容易であり、国や地方自治体の検査等による取締りが困難なインターネット販売では、違法薬物の販売等、大衆薬の副作用とは異なる面で問題が生じやすい事は否定出来ない。公認ロゴや薬剤師の情報をサイト上に表示させるといった方法による対処も到底万全とは言えず、疑問が残る。
この点については、今後も議論が深められてゆくと思われるが、消費者側が危険意識を持ち、知識を能動的に獲得して備える事こそが、一番の対策であろう。
関連判例
最高裁判所第二小法廷平成24年(行ヒ)第279号
平成25年1月11日判決
大衆薬の郵便等販売(インターネット販売)に対する規制は、職業活動の自由を相当程度制約するものであり、国会が新薬事法を可決するに際して第一類医薬品及び第二類医薬品に係るインターネット販売を禁止すべきであるとの意思を有していたとはいい難い。そうすると、厚生労働省の規則に対する新薬事法の授権の趣旨が、第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものと解するのは困難であるというべきである。
したがって、新施行規則のうち、店舗販売業者に対し、一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について、〔1〕当該店舗において対面で販売させ又は授与させなければならないものとし、〔2〕当該店舗内の情報提供を行う場所において情報の提供を対面により行わせなければならないものとし、〔3〕郵便等販売をしてはならないものとした各規定は、いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において、新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。
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