愛知県の学校法人がデリバティブ取引で、証券会社を提訴
2013/05/14 金融法務, 金融商品取引法, その他
事案の概要
藤田保健衛生大学や、藤田保健衛生大学病院等を運営する、学校法人藤田学園(愛知県豊明市)は、デリバティブ(金融派生商品)取引によって、多額の損失を被ったのは、証券会社による違法な勧誘、説明不足に起因するとして、野村証券、大和証券2社に対して、総額約260億円の損害賠償を求める訴えを名古屋地裁に起こした。(訴状は4月16日付)
藤田学園は2003年から2011年にかけて、上記2社との間で、デリバティブ取引を行ったが、2008年リーマンショック以降の金融市場の混乱で、多額の運用損が発生。野村証券との取引では、約93億円、大和証券との取引では、約143億円の損失を出した。
同学園は、リスクに対す十分な説明がないまま、取引を勧められ損失を被ったと主張している。
学校法人がデリバティブ取引で多額の損失を出した例としては、駒沢大学の事例がある。同大学は、2007年「通貨スワップ」と呼ばれるデリバティブ取引をドイツ証券と契約。しかし損失が拡大したために、約63億円の清算金を支払って、2008年に解約した。
その後、駒澤大学は、ドイツ証券に約69億円の損害賠償を求める訴えを提起したが、東京地裁で同大学側敗訴の判決が下っている。(2013年4月16日)
コメント
金融商品を販売する際には、顧客の知識、経験、財産状況、金融商品取引契約を締結する目的に照らして、不適当な勧誘を行ってはならないという原則がある。(下記、金融商品取引法40条参照)
デリバティブのような、リスクの高い金融商品は、顧客の属性によっては、そもそも勧誘、販売が不可能な場合がある。また、勧誘、販売が可能であっても、顧客属性に照らしてリスクに対する、十分な説明がなされなければならない。
このような裁判では、金融商品取り扱い業者が、顧客属性に照らして十分な説明義務を果たしたかがポイントとなる。
一方で、投資家側のリスクに対する意識も問われる。日々営利活動を行っている会社組織に比べ、学校法人や宗教法人は、投資や、資産運用に対するリスク管理が十分でない場合が多い。そのため、投資の失敗により巨額の損失を出すケースが多くなっている。
定期預金や国債の運用では、利回りが低いために、より多くのリターンを期待できる金融商品に手を出したい気持ちは理解できる。
しかし、ハイリターンな商品はハイリスクなのが通常であり、また取引内容も、きわめて複雑なものになる。したがって、デリバティブのような取引を行う際には、金融商品に対する高度な知識、経験を持つ専門家を活用するなどの対策が求められる。
参考条文
金融商品取引法
第40条 金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、その業務を行わなければならない。
1号 金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行つて投資者の保護に欠けることとなつており、又は欠けることとなるおそれがあること。
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