「小僧寿し」元役員のインサイダー取引に課徴金  ―証券取引等監視委員会
2024/06/03   商事法務, コンプライアンス, 金融商品取引法, 会社法, 外食

はじめに


関東を中心に、持ち帰りの寿司店などを展開する「小僧寿し」。その小僧寿しの役員だった男性が、自社の業績予想の下方修正を公表前に約5700万円分の株を売却するインサイダー取引をしていたことがわかりました。
これを受けて証券取引等監視委員会は、5月24日、金融商品取引法に基づき、男性に課徴金の納付を命じるよう金融庁に勧告しました。

 

「小僧寿し」元役員がインサイダー取引か


株式会社小僧寿し(東証スタンダード上場)は、2022年10月28日、新型コロナの影響などがあり、会社の業績予想を下方修正すると公表しました。その際、経常損失の予想が4億7500万円に上る見通しであることも合わせて説明されました。

小僧寿しの役員だった40代の男性(以下、「元役員」)は、公表のあった日の午前9時52分頃から同日午前10時18分頃までの間、小僧寿しの株式合計227万3000株を、自己の計算において、売付価額合計5767万5000円で売り抜けたということです。
業績予想が公表されたのは午後6時頃で、元役員は公表前に売却したことにより、312万円の損失を回避しました。

監視委員会は、この取引が金融商品取引法で禁止されているインサイダー取引にあたるとして2024年5月24日、元役員に539万円の課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告しました。

この課徴金額は、金融商品取引法第175条1項1号・第176条2項に基づき、以下のように算出されています。

[売付け価格25円×1,423,000株+売付け価格26円×85,000株]―[重要事実公表後2週間における最も低い価格23円×(1,423,000株+850,000株)]
=5,396,000 円
→同金額の1万円未満の端数を切り捨てた金額

なお、監視委員会は、元役員への勧告を出した同日、「小僧寿し」の当時の子会社の元社員による別のインサイダー取引についても勧告を出しました。納付を命じられる課徴金の額は29万円とのことです。

株式会社小僧寿しの子会社社員による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について(証券取引等監視委員会)

 

インサイダー取引での罰則


インサイダー取引とは、上場企業の役員などが、その職務や地位によって知り得た未公表の会社情報を利用して、自社株などを売買し、自分の利益を図ろうとするものです。
事前情報を知ることができない一般の投資者は不利な立場になってしまうことなどから、金融商品取引法で禁止されています。

証券委員会は個人、法人ともに不正がないか監視をしていて、違反が確認された場合には、刑事告発や課徴金納付命令の勧告を行っています。

■“個人”への罰則
刑事罰:5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はその併科(金商法197条の2など)
また、刑事罰が科されなかったとしても、行政罰として課徴金の支払いを命じられる可能性があります。

■“会社の行為”への罰則
法人も刑事罰や課徴金の対象となります。
・罰金5億円以下(金商法207条1項2号)
・課徴金:取引額によりますが、額が大きいほどに課徴金額も大きくなります(金商法175条など)

仮に、会社の行為として違反が認めらない場合でも、今回のように会社の役員や従業員がインサイダー取引をしたと認められれば、会社の評判などに直結する恐れがあります。

 

コメント


「小僧寿し」では2020年にも子会社の役員がインサイダー取引で課徴金命令を受けており、再発防止策を早急に講じる必要があると言えます。

日本取引所グループでは、インサイダー取引を未然に防止するため、上場会社で3つのポイントを徹底することが重要であると呼びかけています。

(1)投資判断に重大な影響を与える会社情報の適時開示に積極的に対応すること(適時適切な開示)
(2)未公表の会社情報が他に漏れたり不正に利用されたりすることのないよう社内体制を整備すること(適切な情報の管理等)
(3)インサイダー取引規制の意義や内容について役職員等に周知徹底を図ること(規制の正しい理解)

インサイダー取引をすることで、会社への負担増や市場での自社株への信頼失墜などのリスクがあることをしっかり認識し、適切な取引を行うことが重要です。

 

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