東京五輪エンブレムは法的に問題なのか
2015/08/05 知財・ライセンス, 商標関連, 著作権法, 商標法, その他
1 概要
2020年東京五輪の公式エンブレムが、ベルギーのリエージュにある劇場のロゴに似ているとして、ロゴのデザイナーであるオリビエ・ドビ氏からその使用停止を求められている。
これに対して、東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の高谷正哲戦略広報課長は、「国際的な商標登録の手続きを経てエンブレムを発表している。特に本件に関して懸念はしていない」とコメントしている。
2 争点
本件では、①商標権侵害、特に商標の類似の有無、②著作権侵害の有無が問題となっている。
(1)①について
商標の類似は、ある標章と登録商標との間に、誤認混同が生じるおそれがある場合に肯定される(特許庁の商標審査基準参照)。
その際、外観(見た目)、称呼(読み方・呼び方)、観念(商標から想起される意味)の3要素を検討し、「取引の実情」も考慮する。誤認混同のおそれは、商品・サービスの需要者が、取引時に通常払う注意の程度を基準として判断する。
本件については、公式エンブレムと劇場のロゴとは、似ている部分もあるが、通常の注意力をもってすれば混同する者が多いとはいえず、商標権侵害は認められないのではないかという専門家の見解がある。
(2)②について
著作権を侵害する行為は、既存の著作物に依拠して(ベースとして)、類似している著作物を作成する行為をいうとされる。
依拠性の要件に関しては、「既存の著作物の存在、内容を知らなかった」のであれば、これを知らなかったことにつき過失があったとしても、認められることはないとされる(最高裁判所第一小法廷昭和53年9月7日判決参照)。
また、類似性の要件に関しても、「既存の著作物に対する修正・増減に創作性が認められ、かつ、既存の著作物の表現形式の本質的な特徴が失われている場合」には、認められることはないとされる(京都地方裁判所平成7年10月19日判決参照)。分かりやすくいうと、創作性のないありふれた部分が共通するにすぎない場合には、類似性が否定される。
本件については、公式エンブレムをデザインした佐野研二郎氏は、劇場のロゴを見たことがないとして、依拠性を否定している。また、公式エンブレムには劇場のロゴにはない赤丸のデザインがある上に、公式エンブレムは外枠が四角形であるのに対して劇場のロゴは外枠が円であり、色彩も全く異なる。このような点から、両者に類似性は認められないという専門家の見解がある。
3 コメント
本件の騒動は、ベルギーのデザイナーが遙か極東の日本で行われるオリンピックの公式エンブレムについて、自分のデザインに似ていると主張したことにより発生した。これは、一昔であれば考えられなかったことであり、インターネットの発達による情報社会化・グローバル化によりもたらされた、まさに現代的な問題である。
日本企業も、商標権・著作権侵害の問題とは無縁ではなく、本件のようなトラブルに巻き込まれるリスクは常に存在する。ひとたび巻き込まれてしまえば、瞬時にその情報が世界中に伝わり、企業イメージが致命的に悪化してしまうこともあり得る。日本企業としては、商標権・著作権について細心の注意を払うことで、リスクの最小化に努めることが求められることはいうまでもない。
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