応用美術の著作物性、知財高裁が新判断
2015/08/14 知財・ライセンス, 著作権法, その他
1 概要
実用品、量産物品等に施されたデザインは、著作権法上、(油絵・彫刻など、量産にそぐわない純粋なアート作品を指す「純粋美術」に対する概念として)「応用美術」と呼ばれる。こうしたデザインを他者の模倣から保護するには工業品デザイン保護のための法律「意匠法」が利用できるが、それには意匠出願をし、審査を経て権利登録を受ける必要がある。一方、これらが著作物として認められれば、創作した時点で自動的に権利が認められるため、何の出願も登録手続の手間も必要なしに保護を受けることができる。ただ、この「応用美術」については、従来の裁判例では、あまり著作物として認められてこなかった。しかし、今年春、その慣行を覆す画期的判断が、知財高裁によって下された(知財高裁平成27年4月14日判決)。今回は、業界へ与える影響も大きい本判決を紹介したい。
2 従来の裁判例
従来の裁判例上では、応用美術(工業品のデザイン)がどのような場合に保護されうるかについて、純粋美術(量産にそぐわない純粋なアート作品)と同視できる程度に美的鑑賞の対象になると認められない限り、著作物としては認めることができない、と、高いハードルを課している。実際、多くの裁判例は、ニーチェアや装飾窓格子、ファービー人形など数々の応用美術物品につき、そのハードルは超えていないと判断し、著作権法上の保護を否定してきた。
この背景としては、応用美術(工業品のデザイン)につき著作権法での保護もゆるく認めてしまうと、そもそも工業品のデザインを保護するために作られた意匠法の存在意義が揺らぎかねないから、基本的に工業デザインの保護は意匠法で行い、アート作品は著作権で保護する住み分けをした方がよい、という考え方があった。一方、応用美術(工業品のデザイン)について保護を求める場合だけ、なぜ著作権法の条文上には書かれていないことまで要求するのか、と、法学界から疑問の声も上がっていた。
3 本判決
しかし、原告製品「幼児用椅子」につき著作物として認められるかが問題となった本件事件で、知財高裁は、応用美術は,実用品として利用するにしても、利用目的も様々、表現態様も様々であるから,純粋美術(純粋なアート作品)と同視できる程度に美的鑑賞の対象になるかどうかという判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されていると認められば著作物として認める、と述べた。
つまり、本判決に従えば、応用美術(工業品のデザイン)についても、純粋美術(純粋なアート作品)と同様、作成者の何らかの個性が発揮されたものと認められれば、それだけで著作物として保護されうることになる。すると、これまでの裁判で著作物として認められてこなかった応用美術(工業品のデザイン)についても著作権が認められる余地はでてくる。メーカーが自社製品につき著作権法の保護も受けられる道が大きく広がったことは嬉しいニュースだが、一方、他社から製品デザインを模倣しただろう、と著作権法で訴えられるリスクも生まれたことになる。実際のところ、業界実務がどの程度本判決の影響を受けることになるのか、今後の観測が待たれる。
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