マイナンバーが給与所得に与える影響は?
2015/10/08 マイナンバー, 租税法, 税法, その他
1.概要
2015年(平成27年)10月にマイナンバーの通知カードの郵送が開始された。11月末までには送られてくるとのことだが、国民の主な関心は、もっぱら個人情報の管理についての懸念によせられている。そんな中で、今回は、2016年(平成28年)1月からのマイナンバー制度利用開始に伴う給与所得の税金部分についての概要を説明した後、そのリスクヘッジを改めて考えてみたい。
2.給与所得税
日本における所得税は、給与所得、事業所得、不動産所得、配当所得、一時所得、雑所得、退職所得、利子所得、譲渡所得、山林所得の10種類に分けられている。このうち、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得(所得税法28条1項)であると法律上は定義付けられている。
所得税額の計算方法は、
(1)個人の収入-必要経費(通常の会社員であれば、給与所得控除(同条2項)として、収入金額に応じて算定される概算的経費控除がされている部分)=所得
(2)所得-各種所得控除額=課税所得額
(3)課税所得額×所得税率-税額控除額=納税額
である。(※1)
3.所得控除の概要
日本国内に住所がある場合には、配偶者控除、扶養控除、基礎控除の合計額(※2)が差し引かれる。このうち、基礎控除額は、一律で38万円となっている。
この点、所得控除関連で耳にしたことがある方も多いであろう「103万円の壁」の意味には大きく分けてふたつあることを付言しておきたい(※3)。
まずひとつには、パートやアルバイトでの給与が年間103万円以下の場合、そこから給与所得控除65万円と基礎控除38万円が差し引かれることにより、合計103万円が控除されるため、そのパートやアルバイトをした者に課せられる税額は0円となる。103万円を超えれば納税義務が発生するため、それを発生させないという意味での壁として意味がある。
もうひとつには、世帯主の給与所得のうち、配偶者控除を受けるには、配偶者や扶養を受けている者の年収が103万円以下であることが要件とされている。それを超えてしまうと世帯主の給与所得から控除ができないことになり、結果として世帯主の納付する税額が増加することもある。そこで、配偶者控除や扶養控除の対象から外れないための壁としての意味がある。
4.所得控除とマイナンバー
配偶者控除・扶養控除の対象者である配偶者や子供のマイナンバーについても、勤務先などに知らせることになっており、その収入はほぼ確実に捕捉される。他方、自身が会社に黙って副業を行っていた場合にばれてしまうからプライバシーの侵害だ!などと言う人もいる。―確かにプライバシーを侵害しているようにも考えられるが、副業が就業規則に反しているような場合には当然何らかの処分が下されるのは自己責任だと思うが―。
もしも、給与所得者自身の総収入金額には何ら問題がなく、所得控除の対象になっていると考えていたはずが、家族の収入が「年間給与収入103万円」を超えていたとすれば、不足分だけでなく、加算税までも支払わなければならない義務が発生する。さらに、会社から配偶者手当や扶養手当等が支給されており、その要件に外れていることが発覚した場合、返還や隠蔽責任を追求されるおそれもあるだろう。
5.コメント
マイナンバー制度についてはメリット・デメリットを含め、多くの媒体で話題となっている。その中でも税金部分についてのリスクを改めて考えてみると、国や会社、自分自身での情報管理はもちろんのこと、「家族内」での今まで以上の情報共有を図ることが求められるように感じる。国民ひとりひとりに割り振られている個人識別番号のマイナンバーを、その情報管理には大勢の人間で守っていかなければならない。そうであれば、税金支払の際に起こりうるリスクヘッジとして、まずは「家族内」での情報共有管理を始めるべきではないか。
【補足】
※1 給与所得は源泉徴収され、給与・報酬の支払者が、支払の時点で徴収し、国に納付することになっており、給与等が一定の金額以下の者については、その年の最後の給与等の支払の際に年末調整が実施されている。
※2 他には、雑損控除、医療費控除、配偶者特別控除、社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、 地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦(寡夫)控除、勤労学生控除がある。
※3 「130万円の壁」は社会保険の扶養から外れることを意味するので混同しないよう注意が必要である。
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