2chの商標登録に見る周知商標と不服審判
2016/06/01 知財・ライセンス, 商標関連, 商標法, IT
はじめに
西村博之氏が商標出願し、特許庁より拒絶査定を受けていた「2ちゃんねる」及び「2ch」につき、不服審判申立を経て商標登録が為されていたことがわかりました。本件で問題となっている周知商標と不服審判について見ていきたいと思います。
事案の概要
西村氏は1999年から日本最大のインターネット匿名掲示板である2ちゃんねるを運営してきました。その後2009年にシンガポールのパケットモンスター社に運営権を譲渡していましたが、2014年サーバーの管理者であるN.T.Technology社のジム・ワトキンス氏とサーバー使用料をめぐる紛争から2ちゃんねる運営を二分して対立していました。現在本家2ちゃんねるの運営はジム・ワトキンス氏が行っており、西村氏は2014年から2ch.scというドメインで別に2ちゃんねるを運営している状況です。そんななか西村氏は「2ちゃんねる」及び「2ch」の商標出願を行っていました。特許庁はこれらが他人の周知商標に当たるとして拒絶査定、西村氏はこれを不服として不服審判申立を行っていました。
周知・著名商標とは
以前にも取り上げましたが、商標法4条には商標登録拒絶事由が列挙されております。今回問題となっているのは4条1項10号の周知商標です。周知商標とは需要者・取引者の間で広く認識されている商標を言います。著名とは周知商標の中でもとりわけ知名度が高く日本全国で知れ渡っているような場合をいいます。4条1項10号の場合は周知で足りますが、より保護の範囲を拡大した防護標章登録(64条)の場合には著名まで必要となります。周知性が認められるかは①実際に使用している商標、商品又は役務②使用開始時期③使用期間④使用地域⑤営業の規模⑥広告宣伝方法等を総合して判断されることになります。周知性が認められた場合は実際にそれが商標登録されていなくても類似の商標は登録できないことになります。
不服審判制度
商標登録出願をしたが拒絶理由がある場合には拒絶理由通知書が送られてきます。それに基いて補正を行ってもなお拒絶理由が解消されない場合には拒絶査定がなされます。拒絶査定がなされた場合には、3ヶ月以内に拒絶査定不服審判申立をすることができます(44条)。出願の際の査定は審査官が1人で審査しますが、不服審判は3人または5人の審査官が合議体で行います。これにより不服申立が認められ登録すべき旨の判断が出た場合には登録審決がなされ、やはり拒絶理由が解消していないと判断された場合には拒絶審決がなされます。ここで拒絶審決がくだされた場合には、審決の取消を求める訴えを知財高裁に提起することになります。
コメント
本件で西村氏の出願した商標は「2ちゃんねる」「2ch」でジム・ワトキンス氏が現在運営する本家2ちゃんねると同一の商標と言えます。ここでジム・ワトキンス氏運営の2ちゃんねるに周知性が認められ、4条1項10号の他人の周知商標に該当し拒絶査定がなされました。一方で不服審判においては、本件指定役務を取り扱う業界においてこれらの文字が獲得している周知性は、掲示板の開設から出願時において西村氏が運営していたときによるものとしての割合が相当程度高いとして、ジム・ワトキンス氏運営の2ちゃんねるに周知性を認めませんでした。つまり「2ちゃんねる」「2ch」に周知性を獲得させたのはジム・ワトキンス氏ではなく西村氏であると判断されたものと言えます。これは現運営の2ちゃんねるの周知性というよりも既に獲得された周知性がどちらに帰属するかの問題とも言えます。日本のインターネットにおいて長年に渡り最大の匿名掲示板として運営してきたのが西村氏であることは広く認識されており、現在ジム・ワトキンス氏が運営していることは広く知られているとは言えません。このように商標登録においては、周知性の肯否だけでなく、本来その周知性は誰に帰属すべきか、言い換えればその商標は誰に帰属すべきかも判断されると言えます。運営権をめぐる争いがある場合の商標登録の際に参考にできるかと思われます。
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