信託銀行が不正会計で東芝を提訴、金商法に基づく賠償請求について
2017/04/07 訴訟対応, 金融商品取引法, その他
はじめに
東芝の不正会計事件を巡り、三井住友信託や三菱UFJ信託等の信託銀行11行が株価下落で損失を受けたとして東芝に対し計約140億円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴していたことがわかりました。これまでも多くの投資家が東芝に対し提訴しておりますが、信託銀が提訴に踏み切るのは異例とのこと。今回は金商法による賠償請求について見ていきます。
事件の概要
東芝は2009年3月期から2014年12月期までにおいて計約1500億円の利益を水増しする粉飾決算を行っていたことが2015年7月に発覚しました。不採算部門である半導体事業や巨額の資金で買収したウェスティングハウスの原発事業等で不正会計を行っていたとされております。役員主導で行われていたとして歴代取締役等に対しては現在株主代表訴訟が提起されており、東芝は今年3月から東京証券取引所において監理銘柄となっております。東芝と取引があり、また機関投資家として東芝株に投資していた三井住友信託や三菱UFJ信託、日本トラスティ・サービス信託等の信託銀行11行は今回の虚偽記載によって株価が下落し資産価値が目減りしたとして計約140億円の賠償を求めて提訴しました。
金商法に基づく賠償請求
粉飾決算等で株価が下落し株主が損害を被った場合、株主は会社に対して民法や商法等の不法行為の規定により賠償請求することができます。しかしこのような事例では具体的な損害の額と因果関係を立証することが困難であり、実際に民法基づいて請求した事例でも損害の発生と額が立証できていないとして棄却された事例もあります。そこで旧証券取引法(現金融商品取引法)の平成16年改正によって一定の要件のもとで立証の負担の軽減と損害額の推定規定が置かれました。これにより原告の負担が軽減し、ライブドア事件で初めて本規定が適用され賠償が認められました(東京地判平成20年6月13日)。
金商法上の要件
(1)賠償責任の発生
金商法21条の2第1項によりますと、有価証券報告書等の重要書類に①虚偽記載②記載すべき重要事項の欠落③誤解を生じさせないための重要事項の欠落のいずれかがあり、その有価証券報告書等の縦覧期間中に株主が善意で株式等を取得した場合に賠償責任が発生します。
(2)賠償請求の相手方
上記虚偽記載等によって損害を受けた株主は、当該有価証券を届け出た会社、当時の取締役、会計参与、監査役、会計監査人、執行役等に対しても賠償請求をすることができます。ここで役員等については虚偽記載の事実を知らず、相当の注意を払っても知ることができなかった場合には責任が免れます。会計監査人についても虚偽記載等があったことにつき故意または過失がなかった場合には同様に責任が免れます。会社自体はこのような免責規定はなく無過失責任を負うとされております。
(3)損害額の推定
21条の2第3項によりますと、虚偽記載等の事実が公表された日の前1年以内に有価証券を取得し公表日も引き続き保有している場合に損害額の推定を受けることができるとしています。この場合、事実の公表日前1ヶ月間の市場価格の平均から公表後1ヶ月間の平均額を引いた額が損害額であると推定されます。金商法による賠償請求でもっとも重要な規定ですが、公表日から遡って1年以内に株式等を取得した株主に限定されております。この要件を満たさない場合はやはり民法等の原則に戻って損害額と因果関係を立証しなくてはなりません。
コメント
東芝株は不正会計の事実の疑いが公表される前は500円台で推移しておりました。公表後は急落し、監理銘柄となった現在は200円台を推移しております。今回提訴に踏み切った三井住友信託等が東芝株を取得した時期は不明ですが、虚偽記載の有価証券報告書縦覧期間内であったか、またさらに公表前1年以内であったかによって金商法の適用の有無が変わってきます。縦覧期間内であっても公表前1年以内でなければ損害額の推定を受けることができません。このように金商法が適用されるかは株式の取得時期が大きく影響します。これまでの裁判例から見ても、金商法の規定が利用できる場合とそうでない場合では、賠償が認められるかどうかに相当大きく影響していると言えます。公表前1年以内の取得に限定している点については批判の声もあり、虚偽記載によって損害を受けた株主の保護という観点からは限定に意味はないのではないかとも言われております。今後改正等がなされる可能性はありますが、現時点ではこのような制限があることを念頭に、賠償請求を行う場合は取得時期に注意を払うことが重要と言えるでしょう。
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