タカタがKSSに事業譲渡、M&A手法の比較
2018/04/13 戦略法務, 民法・商法, 会社法
はじめに
欠陥エアバッグ問題で昨年民事再生手続きに入ったタカタは12日、米キー・セイフティー・システムズ(KSS)に事業譲渡を行ない、高田社長も退任した旨発表しました。エアバッグインフレーターに関する一部の事業を除きほぼ全ての資産と事業を譲渡したとされます。今回は事業譲渡を含めた各種M&Aの手法の特徴を比較してみます。
M&Aとは
M&Aとは「Mergers snd Acquisitions」の略で直訳すると「合併と買収」という意味です。一般的には合併や会社分割などを指しますが、より拾い意味では株式の相互保有や事業譲渡、技術提携なども含まれることになります。経営統合を含む強い結びつきから、業務提携のような弱い結びつきといった分類もでき、経営再建や業務拡大などそれぞれの目的に合わせて選択していくことになります。今回は事業譲渡、合併、分割について見ていきます。
事業譲渡
事業譲渡とは「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」を譲渡し、それにより譲渡会社が当然に競業避止義務を負うものと言われております(最判昭和40年9月22日)。プラスの財産、マイナスの財産含めどの財産を譲渡するかは契約で決まることになります。つまり債務などのマイナス財産は承継しないということも可能です。この点につき、商号を続用する場合、債務を承継しない旨の登記が必要となります。また譲渡対象部門の従業員については当然には譲受け会社に移転せず、従業員の同意が必要とされます(民法625条1項、東京地裁平成9年1月31日)。
合併
会社の合併には1つの会社が存続して他の会社を吸収する吸収合併と、複数の会社が合併して新たな会社が設立される新設合併があります。合併はその性質が包括承継であり債務といったマイナスの財産も当然に承継され、負債は引き継がないということはできません(会社法750条1項、756条1項等)。従業員についても事業譲渡と違い当然に存続会社に承継されることになり労働契約関係だけでなく旧会社の労働協約なども承継されると言われております。
会社分割
会社分割は会社の事業を他の会社に包括的に承継させるものです。既存の会社に承継させる場合を吸収分割、新たに設立する会社に承継させる場合を新設分割といいます。これも合併と同様に財産が包括承継させることから債務などのマイナス財産も承継されます。会社分割は事業のどの範囲が分割されるかは分割契約または分割計画によって定まります。従業員の承継も原則としてそれらに従うことになりますが、会社分割に関しては労働契約承継法という法律があり、契約や計画書で承継されるとされていれば当然に承継され、承継されないと定められている場合には労働者は異議を申し出ることができます。異議申出があれば労働契約も当然に承継されることになります(3条、4条)。
コメント
今回タカタがKSSに事業譲渡する内容は、負債も含めたほぼ全ての資産とされております。その譲渡対価は約15億8800万ドルとされ、米司法省との司法取引で合意した補償基金約8億5000万ドル分も含まれているとのことです。事業譲渡は合併・分割と違い譲渡される内容を細かく約定することができます。それゆえに承継には逐一譲渡手続きが必要であるなど煩雑な面もありますが、負債の承継を除外することもできます。会社分割は包括承継であることから負債を除外することができず、あとあと新たに負債が見つかるということもあります。そういった意味では不採算部門を切り離し経営再建を目指す場合には事業譲渡は適している場合があると言えます。しかしその場合でも上記のように従業員の権利関係については注意が必要です。以上のように合併、分割、事業譲渡にはそれぞれに特徴があり、どの手法を選択するべきかはその時の会社の状態や目的によって異なります。それぞれのメリット・デメリットを把握して適切に選択していくことが重要と言えるでしょう。
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