公取委が「ゲンキー」に立入り、優越的地位の濫用について
2018/11/14 コンプライアンス, 独占禁止法
はじめに
公正取引委員会は7日、納入業者から従業員を派遣させ、無報酬で働かせていた疑いがあるとしてドラッグストア「ゲンキー」(福井県)に立入検査を行なっていたことがわかりました。在庫の一方的な返品を行なっていた疑いもあるとのことです。今回は独禁法の規制行為の中で比較的わかりにくい優越的地位の濫用について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、「Genky DrugStores」の完全子会社で北陸・中部でドラッグストアを展開する「ゲンキー」は数年前から取引上の強い立場を利用して、新規出店時に複数の納入業者に従業員を派遣させ、無報酬で商品陳列などをさせていた疑いがもたれております。同社は2015年から福井、石川、愛知、岐阜なので店舗を111増やして現在233店舗を運営しているとされ、相次ぐ新規出店で人手が足りなかったと見られております。
優越的地位の濫用とは
優越的地位の濫用とは、取引上の優位な地位を利用して、取引相手に不当な要求をすることを言います。金品提供の要求、従業員の派遣要求、一方的な在庫の返品などが当たります。違反した場合にはやはり排除措置命令の対象となり(独禁法20条2項)、課徴金納付命令の対象ともなっております(20条の6)。優越的地位の濫用は不当な取引制限や私的独占、排他条件付取引など他の規制行為と違い市場における自由競争への影響ではなく、取引相手の事由な判断の保護を目的としております。
具体的要件
(1)優越的地位
優越的地位の濫用が成立するためにはまず、取引相手との関係で優越的地位が存在することを要します。公取委のガイドラインによりますと、優越的地位の有無は、取引相手にとって取引先を他に変更することが困難で、自社との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになる場合に認められるとしています。その判断に際しては①取引依存度、②自社の市場における地位、③取引相手にとっての取引先変更の可能性、④その他自社と取引することの必要性などを総合的に考慮するとしています。自社が地域において大きなシェアを占め、取引相手もほぼ自社とだけ取引しているような場合は優越的地位が認められると言えます。
(2)不当性
上記優越的地位を利用して不当に濫用行為を行う必要があります。「正常な商慣習に照らして不当に」とは公正な競争秩序の観点からみた商慣習に反することをいい、①取引条件が相手に与える不利益の程度、②取引条件が広く用いられているか、③取引条件が予め明確にされているか、④相手方に要請する場面・家庭、⑤相手との合意の有無などを考慮して判断されると言われております。
(3)濫用行為
そして具体的な濫用行為として以下の類型が明文化されております(2条9項5号)。優越的地位を利用して不当に以下の行為を行うことで成立するということです。
①継続して取引する相手方に対して、取引に係る商品または役務以外の商品又は役務を購入させること。
②継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
③取引の相手方からの商品の受領拒否、返品、代金支払遅延、代金減額、相手に不利益となる条件設定等。
コメント
本件でゲンキーは取引相手である納入業者に従業員の派遣を要請し、無報酬で商品陳列などの労務を提供させていた疑いがもたれております。ゲンキーは北陸・中部地方で大規模にドラッグストアを展開しており、納入業者にとっては同社との取引がなくなることは事業継続に大きな障害となると考えられます。また商慣習上も契約にない従業員の無償派遣は不当と言えます。これらが事実であった場合は優越的地位の濫用に当たる可能性が高いと考えられます。従業員派遣は優越的地位の濫用の典型例で、これまでもドン・キホーテやエディオン、ラルズ、ヤマダ電機などで行われてきました。中でもエディオンには40億円にものぼる課徴金が課されております。繁忙期等で人手が足りない場合はつい立場の低い納入業者に従業員の提供を頼んでしまう場合もあるかもしれませんが、多くの場合は違法行為であり場合によっては高額な課徴金が命じられる場合もあります。今一度自社の取引にそのような点はないか確認することが重要と言えるでしょう。
関連コンテンツ
新着情報
- 業務効率化
- LAWGUE公式資料ダウンロード
- 解説動画
- 奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
- 登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
- 潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分
- 解説動画
- 江嵜 宗利弁護士
- 【無料】今更聞けない!? 改正電気通信事業法とウェブサービス
- 終了
- 視聴時間53分
- まとめ
- 改正障害者差別解消法が施行、事業者に合理的配慮の提供義務2024.4.3
- 障害者差別解消法が改正され、4月1日に施行されました。これにより、事業者による障害のある人への...
- セミナー
- 豊泉 健二 氏(古河電気工業株式会社 法務部 部長)
- 藤原 総一郎 氏(長島・大野・常松法律事務所 マネージング・パートナー)
- 板谷 隆平 弁護士(MNTSQ株式会社 代表取締役/ 長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
- 【12/16まで配信中】CORE 8 による法務部門の革新:古河電気工業に学ぶ 人材育成とナレッジマネジメント
- 終了
- 2024/12/16
- 23:59~23:59
- 業務効率化
- Legaledge公式資料ダウンロード
- 弁護士
- 大谷 拓己弁護士
- 弁護士法人 咲くやこの花法律事務所
- 〒550-0011
大阪府大阪市西区阿波座1丁目6−1 JMFビル西本町01 9階
- ニュース
- 「選択的夫婦別姓」、立民が法案提出へ 公明・国民民主も前向き2025.1.16
- NEW
- 秋の総裁選でも注目された、「選択的夫婦別姓制度」。立憲民主党が同制度の導入を目指し、必要な法案...
- 弁護士
- 福丸 智温弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号