王子HDと三菱製紙が提携へ、企業結合規制について
2019/01/15 戦略法務, 独占禁止法, 会社法
はじめに
昨年12月25日、王子HDは三菱製紙との資本提携について公正取引委員会の承認を得たと発表しました。三菱製紙の持ち株比率を今年12月までに33%まで高める予定とのことです。今回は独禁法の企業結合規制を競争制限効果を中心に見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、書籍のデジタル化にともない縮小傾向にある日本国内の紙市場では供給量の削減進めているとされます。王子HDでは三菱製紙と生産拠点を統合し事業の一本化を進めるため資本提携を行っていく方針です。今回問題となった市場は紙の中でも高級カタログや高価格帯の雑誌の表紙に使用される「アート紙」、建築用の「壁紙原紙」、電気絶縁体に使用される「プレスボード」とされております。いずれの市場も王子HDと三菱製紙で国内シェアの大半を占めていると言えます。
独禁法の企業結合規制
独禁法では企業同士の株式取得、合併、会社分割、株式移転、事業譲渡で「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」場合にはこれらを禁止しております(10条~16条)。国内売上高が200億円を超える会社と50億円を超える会社がこれらの企業結合を行おうとする際には公取委に事前届出を行い審査を受けることになります。届出の日から30日間は企業結合を実行することができなくなります。場合によっては報告書の提出や意見聴取を行い、問題があれば排除措置命令、なければ排除措置命令を行わない旨通知されます。
競争制限要件
では排除措置命令が出される場合とはどのような場合でしょうか。対象となる「一定の取引分野」は主に需要者から見た代替性で判断されます。例えばA商品の代わりにB商品を使うことができるなら両者には代替性があり同じ市場となります。「競争を実質的に制限する」とは、公取委のガイドラインによれば、市場における価格、品質、数量などをある程度事由に決定できる状態(市場支配)を言います。この判断にあたっては、市場において市場支配を妨げる力が存在するかを見ていきます。具体的には他に強力な競争者が存在するか(競争圧力)、他社の参入は容易か(参入圧力)、代わりに輸入品が市場に流入するか(輸入圧力)、隣接市場からの競争圧力はあるか、需要者からの競争圧力はあるかなどを総合的に判断することになります。
セーフハーバー基準
企業結合規制にはセーフハーバー基準というものが存在します。企業結合後HHIの数値が①1500以下、②1500~2500でかつ増加分が250以上、③2500を超えかつ増分が150以下の場合は通常競争制限効果はないとされます。HHIとはハーフィンダール・ハーシュマン・インデックスのことで、その市場における各社のシェアの2乗の合計です。たとえばA社のシェアが30%、B社が20%、C社が50%の場合、HHIは3800となります。数値が高いほど市場支配性は強く、1社が100%のシェアを持っている場合は10000となり独占状態となります。
コメント
本件で、王子HDと三菱製紙の「アート紙」市場でのシェアはそれぞれ約70%、約15%で他社は数%~5%となっておりHHIは約5300となります。結合後は両社の合計シェアは約90%となりHHIは約7800となり2500増加することになりセーフハーバー基準を大きく超えることとなります。しかし隣接市場である「上質コート紙」からの競争圧力が一定程度認められ、需要者である出版社等も価格交渉力があり競争圧力があると言え、「アート紙」市場での支配力は形成できないことから公取委は競争制限効果は無いとしました。「壁紙原紙」「プレスボード」市場でも同様としています。以上のようにその業界での有力会社同士が結合する際には市場への影響を緻密に分析して禁止されるかどうかが判断されます。同業他社と事業提携を検討している場合は会社法上の規制だけでなく独禁法の規制にも注意を払うことが重要と言えるでしょう。
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