ユーシンが株式併合、スクイーズアウトの手法について
2019/07/19 戦略法務, M&A, 会社法
はじめに
自動車部品メーカー「ユーシン」は17日、「ミネベアミツミ」以外の株主の保有株が1株未満となる株式併合を行う旨の公告を行いました。これによりユーシンは8月5日付で上場廃止となります。今回はM&Aなどに伴うスクイーズアウトの各種手法について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、精密部品メーカー「ミネベアミツミ」は昨年からユーシンとのM&Aに向けて準備しておりました。今年2月14日から4月10にかけてユーシン株1株につき985円でTOB(株式公開買い付け)を行い2522万3984株の買付けに成功したとのことです。これをうけ、今回827万9748株を1株に株式併合することによってユーシン株は全てミネベアミツミが単独で保有することとなります。東京証券取引所は8月5日付をもってユーシンを上場廃止とすると発表しております。
スクイーズアウトとは
M&Aなどの組織再編を行うに際して会社の株式を100%まとめる必要性が出てくる場合があります。このような場合に少数株主が持つ株式を強制的に取得する手続をスクイーズアウトと言います。証券取引所に上場している公開会社だけでなく、小規模な閉鎖会社でも従業員に株式を持たせていたり、創業者に相続が生じた場合に株式が分散し、これをまとめる必要性が出てくることも有りえます。以下具体的にその方法を見ていきます。
スクイーズアウトの手法
(1)任意買取
まず株主と個別に交渉し、株式を買い取っていく方法が考えられます。これは厳密にはスクイーズアウトではなくその前準備とも言えます。同意に基づいて任意に買い取ることからトラブルも生じにくく穏当な手段と言えます。その半面、株主から同意が得られなければ買い取ることができず、また交渉などに時間もかかるというデメリットがあります。
(2)株式併合
株式併合(会社法180条)を使ったスクイーズアウトの手法があります。株式併合は2株を1株に10株を1株にといった具合で株式を圧縮し発行済株式数を減少させるというものです。特定の大株主以外の持ち株が1株未満となる割合で併合を行うことによってスクイーズアウトが達成できます。以前は株式併合には株式買取請求や情報開示の制度がなく、少数株主の保護に欠け、後に取消訴訟に発展するケースが多く、スクイーズアウトにはほとんど利用されていませんでした。しかし会社法改正により株主保護制度が充実し利用しやすくなっております。
(3)全部取得条項付種類株式
全部取得条項付種類株式とは株主総会の特別決議をすることによって会社がその全部を強制的に取得できる種類株式です(108条2項3号)。まず株主総会で種類株式発行会社となる旨の定款変更決議を行い、発行済株式の全てを全部取得条項付種類株式に変更した上で、全部取得の特別決議を行うという流れになります。株式併合が利用されていなかった頃にしばしば利用されていた手法ですが煩雑で手間がかかるというデメリットがありました。
(4)特別支配株主による株式売渡請求
会社の議決権の90%以上を保有する株主を特別支配株主と言います。特別支配株主は会社に対し全ての株式の売渡請求をすることができ、会社から残りの株主に通知がされると、同意なく株式を取得することができるようになりました(179条の9)。これは平成26年改正の際に追加された制度です。株主総会を経ずに強制的に全株式を取得できることから少数株主側の保護のために差止請求や価格決定申立て、取得無効の訴えが新たに設けられている点に注意が必要です(179条の7~8、846条の2~9)。
コメント
ミネベアはユーシンとのM&Aを行う手法としてまずTOBを行ってできるだけ株式を買い集めた上で株式併合を行う方針です。株式併合は株主総会の特別決議を要し、また株主や登録株式質権者への公告が必要となります。特別決議で賛成可決するためには3分の2の議決権が必要です。以上のように株式の100%を取得するスクイーズアウトには様々な手段が存在します。会社の規模や株主の数、すでに取得できている株式の割合などで選択すべき手法も変わってきます。また締め出される少数株主に与える対価も適切に決定していく必要があります。M&Aや組織再編だけでなく、支配権の統一して意思決定の迅速化、敵対的な株主の排除、連結化による優遇税制など、スクイーズアウトを必要とする場面は多いと言えます。以上を踏まえて自社に最も適した手法を選択していくことが重要と言えるでしょう。
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